あの後の三人
no:side
ドアをくぐった三人は、エインズワースの屋敷に戻ってきた。
「…まさかウィルが精霊使いだったとはな」
「ええ…悪魔に狙われているから隔離するとは聞いていましたが、まさか精霊が絡んでいたとは、父も旦那様もお話ししてくれないはずです」
マリウスが眠っているルーを抱えたまま、ユリエルとともに玄関ホールへ向かう。
「マリウス、俺たちは強くならなければならない。お前はウィルにもルーにも近い、何かあればすぐ助けにいけるのはお前の可能性が高いだろう。頼んだぞ」
「はい。ユリエル様の信頼を裏切らないよう、全力で守ります」
「俺とお前はもう同志だ。こういうときはユーリと呼べ」
「わかりました、ユーリ」
玄関に着くと、二人は向き合う。
「魔法学院にはきっとウィルも入学する。中等部に間に合うかわからないが、高等部には入ってくる。それまでに、俺達で内部を固めるんだ。それがそのまま軍の中での力になる。…俺は気付いたんだ。このままでは、この国のままではウィルも、ルーも、俺も、お前も安心して暮らせない。この国を内部から変える必要がある。父にもできなかったことだ、きっと楽な道ではない。でも、やらなければならないんだ。…お前も、着いてきてくれるか?」
「私はもとより、この家の方々のために人生を捧げると誓っています。ユーリの提案には私も賛成です。二人でならきっと、国を変えられます。着いていくなんてことは言いません。一緒に歩かせてください」
「ふっ、そうだな、一緒に成し遂げよう」
玄関の扉が開き、ユリエルが外に踏み出そうとしたそのとき、
「んん、お…にいさま…」
マリウスの腕の中にいたルシアンが目を覚ました。
「お目覚めですかルシアン様」
「まりうす…?…おにいさまは?おにいさまはどこ?」
「ルー、お前が寝ている間に帰ってきたんだ」
「…っう…おにいさま…やだ…ばいばいってしてない…うぅ…」
「ル、ルシアン様、また後日訪ねましょう、すぐに会えますよ」
「うぅうううう〜〜」
ルシアンがマリウスの腕を嫌がったので地面に下ろす。その瞬間にドアに向かってルシアンが駆け出した。
「あっ、ルシアン様!旦那様のお許しが無いと開けてはいけません!」
「ルー!」
二人が同時に走って向かう。体格の違いですぐに追いつき、ユリエルがひょいと抱き上げた。
「いやぁ!おにいさまにばいばいするの〜!」
「今日はもうお終いだ。ウィルも訓練で疲れているんだ、わがままを言うな」
「…ひっく…ぅ…」
んーんと首を振り涙をこぼすルシアンに、マリウスも困惑している。
「ウィリアム様と離れていた期間が長かったので、その分の不安が今押し寄せているのでしょう。最近のルシアン様は一生懸命勉学に励んでおられて、そこで寂しさを紛らわしていたようですし」
マリウスの言葉にユリエルは少し思案したあと、ルシアンに問いかけた。
「…ルー、お前はウィルが好きか?」
「…ん…だいすき………」
「今、そんな顔でウィルに会いにいったとしても、ウィルを心配させてしまうだけではないのか?今日帰る時、ウィルはとっても幸せそうだった。ルーやマリウスや俺と沢山話をしたからだ」
「うん…」
「そんな幸せな時間の最後が、このままだとルーの泣き顔に変わってしまう。それでも良いのか?」
「………よくない…」
「だから、今日はもうご飯を食べて、今日あったことをお前の父様に話してやるんだ、ウィルと過ごした幸せな時間のことを。そうすれば、父様はきっと喜ぶ。幸せのお裾分けだ。できるか?」
「…できる」
「これはルーにしかできない。任せたぞ」
「…うんっ…ぼくがんばる…」
「いいこだ」
その様子を見ていた使用人達は、ルシアンの成長に涙したという。
その夜、帰ってきたアーサーの寝室で今日あったことを楽しそうに話すルシアンがいた。