安全地帯 2
広間を出て、廊下の先にある突き当たりのドアを開くと小さな部屋に入った。部屋といっても、四畳半ほどしかない広さで家具の類いは何も置いてない。さらに不思議なのが、ドアの向こうにさらにドアまたあるところだ。
入ってきたドアを閉めると、ティアが目の前のもう一つのドアに手をかけた。
「ふふっ、ウィルに僕たちからのプレゼントだよ!」
そう言ってティアがドアを開けると、ドアの向こうに父様とルーが見えた。
「父様…ルー…!」
「おにいさま!!」
ルーが勢いよく走ってくる。ルーを抱きとめて、俺は床に崩れ落ちた。
「おにいさま、あいたかった…あのね、るーね、じをかけるようになったの、あとね、おにいさまがくれたまほうのほんもぜんぶよめるようになったの、それにね…」
「うん、うん、がんばったね、ルー」
ルーには目を覚ました時に一回会っただけで、何ヶ月も会っていなかった。このまま会えなくなるかもしれないと思ったときもあった。そんな思いが吹き出して、耐えられず涙があふれた。ルーも泣きながら話していたが、そのうちただ泣きながら俺にしがみついてきた。ルーには詳しい説明をしていないと聞いていたが、みんなの変化を機敏に感じ取って不安だったに違いない。俺とも引き離されて、いつ会えるかもわからない、そんな状態でルーは懸命に頑張っていたのだと思うと、さらに胸が締め付けられて、震える小さな手を優しく握った。
「これからは、またこうやって家族で会えるよ」
父様はそういうと、俺とルーを抱きしめた。
「あのドアはこの屋敷を建てたときに作ったものだ。統括機関や国の目をすり抜けて、望んだところに空間をつなげることができる。研究者の一人が開発したんだが、いかんせんこの屋敷にはこのドアを使って会いにいくような友人や家族がいる者がいなくてな、今まであることも忘れいていたくらいだ。ドアの先をウィルの屋敷に繋げたので、これからはいつでも家族に会える」
「ありがとうございます、本当に」
広間に戻ってきた俺たちは、ソファーに座り改めてノエルから説明を受けていた。ルーはすっかり泣き止んで、今はニコニコしながら俺の膝の上に乗ってルドルフから貰ったお菓子を食べている。父様は俺たちの隣に座り、俺の頭を撫でている。
「今日は私たち二人だけだけど、今度はマリウスやユリエルも連れてくるよ、あの件があってからユリエルに会ってないだろう?彼もすごく心配してるんだ。ワイアットがユリエルの元気が無くなって別人みたいになってしまったって落ち込んでたから、元気づけてやって。マリウスも責任を感じて塞ぎ込んでいるよ、ウィルがいないと私の屋敷は人がいないみたいに静かで落ち着かないよ」
「ユーリにもマリウスにも、会ってちゃんと話をしたいです。二人とも大切な友達と家族ですから」
「うん、二人とも喜ぶよ」
「またみんなでおちゃしようねっ」
「そうだね、ルー」
またみんなに会える、それだけで俺はもう幸せだ。ルーにお菓子をあーんしてもらいながらこの幸せな時間を噛み締めた。