ハイナーの秘密
ノエルに再び会う機会は、意外とすぐにやってきた。
「久しぶりだな、ウィル」
「はい、また会えて嬉しいです。ハイナーさんも」
「お久しぶりです…」
なぜハイナーも一緒なのかと聞くと、
「こいつのステルス魔法は便利なんだ。存在を消して行動できるから、コソコソ移動するより動きやすいんだ」
と言われた。振動系の魔法だと聞いたが、いったいどうやって気配を消しているのだろうか。
「はあ…一応説明しますと、僕のステルス魔法は空気中に存在する自然因子に働きかけることで発動できます。空気中には通常の人間には操れないレベルの細かい自然エネルギーを持った因子が存在していて、多くの魔法装置や感知タイプの魔法もこの自然因子の流れを読み取って人間を認識するシステムが多く導入されています。勿論、直接魔力因子を感知するタイプのものがありますが、感知するまでにどうしても自然因子を経由しなければならないので、結局自然因子を操れれば感知タイプからも魔法装置からも認識されず透明人間のように行動することができるんです」
俺の視線に堪えかねたようにハイナーが教えてくれた。
「でも自然因子を操るなんて、そんなことできるんですか…?」
「まあ普通の人はできないでしょうね、僕は風の因子を持っていますが、ほかにも大地、火、水の自然を司ると言われている魔力因子をすべて持っています。だから空気中の自然因子すべてに働きかけることができますし、風の魔法を応用して自然因子を乱すこともできるんです」
「すごい…」
「でもこの体質のせいで統括機関に早くから目をつけられまして。自由にできない生活が続きました。その状況から救ってくれたのが特別研究室なんです」
ハイナーも俺と同じように特異体質だということに驚いた。それと同時に、統括機関に目をつけられるということがどういうことなのかも再認識した。
「ではウィル、そろそろ行こうか。みんながお待ちかねだ」
「はい!」
ハイナーのステルス魔法を使いノエルに連れてこられたのはこじんまりとした町外れの屋敷だった。
俺の屋敷と比べるとかなり小さいように見える。しかし、庭には多くの花が咲いており、緑が生い茂り、庭の真ん中には白い石でできた噴水がある。遠くから見ただけでもかなりの数の精霊が遊んでいる。
「すごい…」
思わず口から言葉が出た。
「ここは誰からも、何からも干渉されないし認識もされない。だからここでは精霊との共存が可能になっている。皆ここを憩いの場所として利用している」
「だから精霊達があんなに楽しそうにはしゃいでるんですね」
「この環境のせいもあるが、なにより今日ウィルがここに来ることが楽しみで仕方ないんだろう。一歩入ったらあいつらに囲まれるのは覚悟しておけよ」