特別研究室
「俺の専門は風の魔法を応用した振動系ステルス魔法を駆使した情報収集ですから、このくらいの尾行と侵入は朝飯前です…それより、もう少し気をつけた方がいいですよ。統括機関はまだウィリアム・エインズワースを諦めていませんから」
「君もその統括機関だろう?」
「統括機関ではありますが、俺たちは本部の指揮系統とは別の、独自のシステムを築き上げているので、本部とは全く違う考えで動いています。
俺は統括機関の中でも孤立した部署、特別研究室から極秘で来ましたハイナー・ナイトハルトです。あなた達の力になれるかと思い、失礼ながらこのような形でコンタクトをとらせていただきました。本部にこのことが知られると厄介なので、他言無用でお願いします」
「特別研究室…まさか…そんなところが私たちに何のようだ」
特別研究室…本で見たことがある…統括機関の中でも一番特殊で本部でさえもその動きを把握していない特別な部署。
研究機関というだけあって、メンバーには著名な研究者が名を連ねている。専門書の著者でたびたびこの部署のメンバーを目にする。
本部とは別に動いているといっても、統括機関には間違いない。父様は警戒を解かずに質問を続ける。
「それに、研究室と言ったって統括機関に変わりはないよ。ウィルが欲しいみたいだけど、そうはさせない」
「う~ん、ウィリアム・エインズワースが欲しいというのは少し語弊がありますね。研究室としては数年ぶりに発見された精霊使いを保護したいだけなんですよ。今までに発見された精霊使いは本部の監視下から外れて、すべて極秘で研究室が保護しているんです。本部の奴らは精霊使いのデリケートさを分かってないので」
「それを信用しろと?」
「疑う気持ちは分かります。でもこちらに協力してもらえれば、それなりのメリットが見込めると思います。我々は精霊を専門に扱っている責任者のもとで精霊使いのコミュニティを築き、それを共有させて、より彼らが住みやすい環境を提供しています。精霊使いは周りに仲間が少ないので、精霊の扱いを教え合ったり、精霊使い特有の悩みを共有することができにくい環境にあることが多々あるので。
こちらとしても、精霊の研究の一貫である部分もありますが、年々精霊使いが発見されにくくなっていることに危機感を抱いています。少しでも精霊について知るためにぜひ協力していただきたいのです。信じられなければ、一度精霊使いのコミュニティを見てもらってもかまいません」
どうやら引く気はないらしい。父様も信用していいのか判断しかねていて、場に緊張が走る。
しかし俺は、彼の別の言葉が引っかかっていた。