動かない身体
こいつの狙いは俺のようだし、このままでもマリウスには危害は加えないだろう。
「なんで俺を狙うんだ」
「なんでって、君が必要だから?あんまり喋るとサレオスに怒られちゃうからな〜でも可愛いから答えちゃおうかな~」
どうしよっかな~とくねくねしている男に何か攻撃しなければと考えていると、男が動きを止めた。
「もっとお喋りしてたいけど、早く連れて行かないと怒られちゃうから、もうつれてくね~大人しくしててね~」
ゆっくりと近づいてくる男に何か抵抗しなければならないと分かっているのに、体が動かない。
訓練と実践は違う。いつかローランドが言っていた言葉が浮かんだ。本当だ、訓練だと動けるのに、今は全く体が動いてくれない。
「ん~いいにおい~やっぱり鍵っていいにおいするんだ~…ちょっと味見しちゃダメかな…」
俺を持ち上げると、片腕で抱っこする。鍵ってなんだ…?てか味見って何だ!聞こえたぞ!
それより、逃げなきゃ、なんで体が動かないんだ!
声も出せなくなっていることに気づき、パニックになった。
「おとなしくなってもらうためにちょ~っと術をかけたけど、あっちに着いたら解いてあげるから安心してね~」
そのまま男が歩き出そうすると、前から走ってくる影が見えた。
「ウィル!!!」
(だめだユーリ…お前が敵う相手じゃない…!)
口をぱくぱく動かすが声が出てくれない。
「ウィルを離せえええ!」
ユーリが勢いよく腕を水平に切り炎を刃のように打ち出す。
「次から次へと~もう加減すんのめんどくさいから殺しちゃってもいいよね?」
男の目の色が変わった。ユーリの炎を腕を一振りして打ち消し、そのままユーリに向かって腕を突き出した。
「死ねよ」
それまでの声とは全く違う冷たい声でつぶやいた男に、鳥肌が立った。
男の腕に黒いエネルギーが集まり膨らんでいく。
まずい。このままだとユーリが。
そう思った瞬間に男の腕からエネルギーが発射され、ユーリに向かって一直線にのびていく。
このままだとユーリが、ユーリが、
ユーリが!
強くダメだ!と思ってカッと体が熱くなって、そこで俺の意識は途絶えた。