ありえないもの
「やっぱりここにいたかあ~あちこち探しちゃったよ~」
振り返ると見たことの無い男が立っていた。背は高く、髪の色は白く、肌は浅黒い。
瞳は燃えるような赤い色をしており、全身黒尽くめだ。黒いコートに黒の長ズボン。靴は編み上げブーツで、どこかのV系バンドみたいだ。そいつはにやにやしながら俺の肩に手をおいた。
「あの…どちら様ですか…?お会いしたことは無いと思うのですが…」
さりげなく馬車に先に戻るようにルーの背中を押して促す。こちらをしばらく不思議そうに見つめていたが、何かを察しててくてく馬車に戻ってくれた。
「う~ん、お会いしたことは無いけど~ずっと探してた?みたいな?」
「人違いです、離してください」
「そうもいかないんだよね~俺も仕事だからさ~とりあえず一緒に来てもらえる~?」
冷や汗が流れる。こいつが何者か分からないが付いていっては行けない。そんな気がする。
こんな場所で争うわけに行かないし…。どうしよう。
目の前の男をにらんでいると、ケーキ屋からマリウスが出てきた。
「ウィリアム様!…どなたか存じませんが、その手を離していただけませんか?」
そういって男の手を取ったときだった。
「あ~もう~めんどくさ~い!」
男が突然大きな声を上げ、マリウスの腕を振り払った。
強く振り払われたらしく、訓練を受けているとはいえまだ子供のマリウスは後ろに尻餅をついた。
「サレオスには穏便につれてこいって言われたけど~全然外に出てくれないし~
てかこの街結界強すぎて探知しづらいし~穏便とかむり~」
そういって段々と姿を変えていく。耳は尖り、顔には入れ墨のような模様が浮かび上がり、最後に黒い翼が背中から生えてきた。ここまで来て理解した。こいつは悪魔だ。
なんで悪魔が結界の中に…!