春とケーキと
三人で訓練を始めてから最初の春が来た。
午後のお茶をやっと中庭でできるようになりルーがとても喜んでいる。
寒い冬を越してユーリの庭のバラもだんだんと咲きだして来たらしい。
今日はユーリの家の庭へルーと一緒にバラを見に行く約束をしている。いつもより少し早く馬車に乗り、街の中を進む。ユリエルの家までは馬車で二十分ほどだ。いつもは適当にランスロットにお茶請けのお菓子を持たせてもらうのだが、ユーリの誕生日が近いので今回は行く途中の街でケーキを買っていこうと思っていた。
馬車に乗り込んだのは俺とルーとマリウスだ。ランスロットはアルバートと一緒に父様の手伝いに向かってしまったので今日はいない。なんでも、近頃境界が曖昧になっていてスポットが観測されることが多くなっているらしい。
しかし、街ごとに強力な結界を張っているので今まで大きな被害は出ていない。
とにかく、その日は穏やかな天気で風が気持ちよく、花壇の花が咲いているいい日だった。
俺たちは馬車を止めてもらい、最近できたという人気のケーキ屋を訪れた。
予約をしておけばよかったなと思うくらいには混雑しており、外から見ても小さいケーキ屋は人であふれていた。
カランカラン
ドアを開けた瞬間、店にいた人達が一斉にこちらを見て固まった。
一歩踏み出すと、人ごみがサッと引いてショーケースまで道があいた。
「参りましょうウィリアム様、皆さん先を譲ってくださるみたいですから」
「う、うん」
い、いいのか…?でもみんなぼーっとして動かないし、そういうことなら先に買っちゃうぞ!
「すいません」
「は、はい!」
「友人の誕生日にケーキを一つ買いたいのですが、どれがおすすめですか?」
まだ戸惑っている俺にかわってマリウスが店員さんに聞いてくれてる。ルーは俺の手を握りながらショーケースに釘付けだ。
「おにいさま!ぜんぶきれいでおいしそう!」
「そうだな、今度は違う種類のケーキを買いにこよう」
「うん!」
「ウィリアム様、ルシアン様、このフルーツケーキでいいでしょうか?この店の一番人気のケーキだそうです」
そういってマリウスが見せてくれたケーキはフルーツがたっぷりのせてあるおいしそうなケーキだった。
上に乗ってる果物がテラテラと光っていて宝石のようだ。
「うん、これにしよう」
「かしこまりました。箱に入れてもらってラッピングするので、先に馬車にお戻りください」
「じゃあ先に戻ってるね。いこう、ルー」
「ゆーりよろこんでくれるかな?」
「ああ、きっと喜んでくれるさ。ユーリは甘いものが好きだからな」
「たのしみね~」
鼻歌を歌うルーを見ながら店を出た。すぐ側に止められた馬車に向かおうとすると、後ろから声をかけられた。