表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

灰色の直線通路

 通路はずっと真っすぐに続いてるようだった。歩いても歩いても一向に見えるものは変わらなかった。無機質な灰色の壁と床、それと同じ色彩の天井。床が左右に傾いていることもなければ、登りや降りといった勾配もなかった。天井には等間隔で照明が灯り、先が見えなすぎて恐怖を感じるといったことはなかった。わたしの好奇心は行く手に何があるのだろうかということに集中していた。だが、いくら歩いても目に映る風景は変わらなかった。通路はただずっと真っすぐ続いているのだった。幅が広くなったり狭くなったりすることもなく、天井が高くなったり低くなったりすることもなかった。通行のさまたげになるような物が置かれていることもなく、側壁が切り取られ、その先に部屋があるということもなかった。とにかく通路は何の変化も見せずにただ真っすぐ続いていたのだ。わたしは早くもあきらめに似た気持ちに突かれながら、この先何かがあると信じて歩きに歩き、そしてまた歩いた。しかしわたしはあまりにも変化のないことに苛つき疲れ果て、壁にもたれかかるようにして座り込んだ。

「いったいなんだというんだ!」

 ツアーに出てわたしがはじめて声に出した感情は怒りだった。そうしたことで幾分怒りが収まってゆくのがはっきりと感じ取れた。

「いったいなんだというんだ!」

 不満を吐き散らしたことで、少しばかり冷静に物を考えられる気がしたわたしは腕時計に目を落とした。短針は午後の一時であることを教えていた。

 入口を出発したのは午前十時だったはずだ。ということは、もう三時間ほど歩いたことになる。疲れて当然ともいえる。喉が渇いた。何か飲みたい。空調は完全にコントロールされているようだが、長く歩いてきたせいだろう、体が熱い、汗をかいたから、気持ちも悪い。けど、それはまだ我慢できる。とにかく何か飲みたい。

 わたしは鎮まりかけの怒りを抱えながら、座りこんだ場所で幾分ぼんやりしながら休んでいた。

 そういえば、気づかなかったが、あれは監視カメラなのか? たしか監視は一切されないと記憶していたが。それにこの蛍光灯のような照明、おそらくこれはLEDを使ったものだろうな。なぜってチラつきがまったくないからだ。それに、光は自然光にとても近い感じがする。物が見える距離? 考えてみたこともなかったけど、今見えている距離ってのはどれくらいなんだ?

 わたしは、何度もくり返し電話口で聞いた音声案内と、モニターが映していた注意事項の内容を必死に思い出そうとした。

 そうだ、たしかにあの女は監視は一切ないと言っていた。なにもかもが自由になる世界だ。そうとも言っていた。でなければ、俺だってこんなところへは来やしない。それは確実だ。じゃああのカメラみたいなのは何なんだ?

 ゆっくりと立ち上り壁の高い位置に埋め込まれた装置をじっくりと見てみると、どうやらそれはマイクとスピーカーらしかった。

 なるほど、そういうことか。きっと緊急事態が起こったときのために、そういうことなんだろうな。

 歩き続けたことでかいた汗が蒸発してきたせいなのか、不慮の事態に陥ることを恐れてなのかもわからずに、身震いしている自分に気づいた。怒りから解放されたかと思えば不安に駆られる。

「なんてこった。とりあえず先に進もう」

 いやな気分を追い払うように、立ちあがったわたしは、変化に乏しい通路をまた歩き出した。ペースははじめより随分落ちていた。

「見える距離か。モニターには、そんな説明はなかった気がするな」

 いつだったかは忘れたが、人間がある程度物を正確に認識できる距離は決まっているって習った気がする。どのくらいだっただろうか? ようするに地平線だとか水平線だとかが見える距離のはずだ。まあせいぜい見えても四キロから五キロってところだろう。ということは、この通路は少なくともあと四キロくらいは続いているということか。

 通路の先を凝視してみる。

 どうやら間違ってはいないようだ。じゃあ見えているところまでいくのに、どれくらい歩けばいいんだ? 歩幅とそれを運ぶスピード。最後は体力勝負ってことか。今のペースだときっと、四キロ歩くのに四、五十分といったところだな。

 わたしは朦朧としてくる頭を、すっきりさせておきたくて、疑問に思うことを片っ端から考えながら、ひたすら歩き続けた。答えなどあっていようがいまいがどうでも良かった。そうしていなければ足を運び続けることが出来そうになかったのだ。それでも喉の渇きだけは感じ続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ