めっっちゃ恥ずい状況になったでごわんす
和也は「まさか」とは思いつつも、ダッシュで自宅へ向かっていた。
自宅に着くと、玄関ドアを蹴り飛ばし、自室のドアはダイブして吹っ飛ばした。
「はにゃにゃ!?(なになに!?)」
猫桃菜は、びっくりしてドアと共に部屋に転がってきた和也を見た。
「な、なあ……ミーナ、お前さ……」
「うにゃ……?(な、なに……?)」
突然転がり込んで来たかと思えば、和也は緊張した面もちで桃菜に訊いた。
「お前……伊吹か?」
「……!!」
猫桃菜は更に驚愕して、言葉に詰まった。
「にゃ……にゃにゃ……?(な……何でそれを……?)」
猫桃菜は和也に問いかけたが、和也は猫語が分からない。
「いや……猫語分かんねンだけど……ジェスチャーで伝えてくんね? お前は伊吹か?」
「はにゃ!(そだった!)」
猫桃菜はゆっくり頷いた。
和也は信じられないという表情で猫桃菜を見つめた。
「人間の言葉が分かンだよな……前から妙に人間ぽかったし……じゃあ、マジで伊吹なんだな……?」
猫桃菜は再び頷く。
「信じらんねぇけど……信じるしかねぇな……。そっか。まあ、良かったよ。俺らずっとお前の事探してたんだぜ?」
和也は安堵と疲れを顔に滲ませながら、猫桃菜を見た。
「にゃにゃ……(ごめんなさい……)」
「や、だから猫語分かんねンだって」
「はにゃ! にゃあ!(そだった! ごめん!)」
「だから分かんねって」
「にゃ……うにゃにゃ(ごめん。謝ったんだよ)」
「いやだから何言ってっか分かんねっつの! ホント馬鹿だなお前……」
和也に怒られて、桃菜はちょっと落ち込んだ。
「あー疲れた腹減った。取り敢えず佐川にメールしてから、風呂入るかな。汗かいたし……」
「ふにゃ……(風呂……)」
風呂といえば、そう、あれだ。
桃菜はいち早くそれを思い出し、赤面した。
和也も遅れて思い出し、赤面した。
「あー……んん゛っ!」
和也はわざとらしく咳払いをしてごまかした。
猫桃菜が和也を見上げる。和也と目が合う。
お互いにコンマ1秒でそらした。
しばらくお互いにモジモジしていたが、和也が意を決して猫桃菜に言った。
「ごめん! ほんっっとごめん! あんなの、わ、猥褻行為だよな! でもそんな気なかったんだ。許してくれ!」
と頭を下げた。
「にゃにゃ……(竹内くん……)」
桃菜はびっくりした後、すぐに穏やかに頷いた。
安堵の表情を浮かべる和也を見ながら、桃菜は想っていた。
―素直に謝ってくれた。
竹内くんは全然悪くないのに。
でもそういう、素直で真っ直ぐなところが……
好き――。
和也は不意に、こんな事を呟いた。
「一緒に寝たりもしたけど……まあ、嫌じゃなかったしな」
―ドキッ
猫桃菜の心臓が、跳ねる。
―それは、どういう意味……?
期待しちゃってもいいのかな――。
この瞬間、2人の物理的ではない距離が、少し縮まったかもしれないし、変わらなかったかもしれない。
和也は少し咳払いをしてから、提案をした。
「まあ、それよりあれだな。佐川にメールして、今後のこと考えないとな」
「にゃっ、にゃあにゃ(そ、そうだね)」
真相が分かっても、まだ猫桃菜を桃菜に戻すという、重大なミッションが残っている。
まだまだ二人の奮闘は続く――。