心配でごわんす
「ここは……?」
桃菜が目を覚ましたのは、和也のベッドの上だった。
「……ん、桃菜起きたか? 良かった……。心配だったんだよ」
「たっ、竹内くんっ! えっ、てかなんであたし……」
ベッドから飛び起き、桃菜は自分の姿を見て驚いた。なんと桃菜は人間の姿に戻っていたのだ。しかし、何故か和也と前より親しくなっている。桃菜は混乱した。
「もう心配かけんなよ」
混乱する桃菜をよそに、そう言いながら、和也は桃菜に近づく。
「ちっ、近いよっ!」
顔を真っ赤にした桃菜が抵抗するが、それも虚しく、和也は桃菜の抵抗する腕を桃菜の頭の上で押さえながら、桃菜をベッドに押し倒した。
「たっ、竹内く……」
目の前にくる和也の顔に、桃菜は恥ずかしさで頭がいっぱいになった。
「お詫びに、キスさせて?」
「ふぇっ?」
和也の発言に、思わず桃菜は変な声を出した。
そして、みるみるうちに顔を赤くさせ、
「な……なに言ってんの」
と抵抗した。
しかし和也は強引に、
「いいだろ? 心配かけたお詫びだよ。……つか、俺が桃菜としたいんだよ」
と語尾を少し照れながら言って、桃菜に迫った。そんな顔をされては、桃菜もあからさまな抵抗は出来ない。
もともと桃菜は和也が好きなのだ。桃菜は覚悟を決めて、目を閉じた。
しばらくして、唇に柔らかいものが当たった……。
途端に桃菜は恥ずかしくなっ、ベッドから飛び起きた。
「うおっ! ミーナどうしたよ。ビックリしたなー……」
「ふにゃ?(ふぇ?)」
猫桃菜は、まず最初に和也が何やら難しい顔でスマホをいじっていることに疑問を抱いた。
「しっかしミーナ、急に倒れたらビックリするじゃねぇか。一応獣医に連れてったけど問題ないって言うからとりあえず寝かしてたけど……」
猫桃菜はますます混乱して、気がついた。なんか自分が猫に戻っている。猫桃菜はだんだん状況が分かってきた。
自分は夢を見ていたのだ。
「にゃにゃにゃ……(私、なんて夢を……)」
猫桃菜は自分が恥ずかしくなり、顔を赤くさせた。
でもいつかは……あんな風になれたらいいな。
と桃菜は思っていたのだった。
「にしても……伊吹はまだ見つかんねーのか」
「?」
和也の呟きに疑問を抱き、和也が操作しているスマホの画面を覗いてみた。
するとそこには……。
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From:佐川
Sb:Re:
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こっちにはいないよ
竹内も飼い猫が目を覚ましたら手伝って
あたしは商店街の方にも行ってみるε=ε=┏( >皿<)┛
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「うにゃ……(桐花……)」
桃菜はその内容に、少し心を傷めた。
自分の注意が足りなかったせいで、親友まで巻き込んでる。それに、好きな人まで……。
「っしゃ、俺も行ってくる。ミーナ、悪いけどちょっと留守番な」
「にゃにゃ? にゃあ!(行っちゃうの? 桃菜は私だよ!)」
「心配すんな。すぐ帰る」
「にゃあにゃ!(違うの。私はここ!)」
猫桃菜は自分の言葉が通じない、と言う事に腹が立ち、地団駄を踏んで和也に訴えた。
和也は一つため息をついて、厳しい目で猫桃菜を見た。
「構ってあげられないのは悪い……けど今は、伊吹を見つける事が先決だ。頼む。行かせてくれ」
猫桃菜は必死に首を横に振って、探さなくてもいいことを伝えようとする。
しかし、それも和也にとっては『行かないで』という意味に捉えられてしまう。
「……伊吹が心配なんだよ」
「にゃっ……?」
「あいつ、いい奴だしさ……こんな事件に巻き込まれてんのほっとけねぇ」
和也の言葉に、猫桃菜は地団駄を踏むのを止めた。そして和也の顔を見つめる。
「行ってくる」
和也が部屋を出て行く。猫桃菜は、それを追いかける余裕がなかった。
それよりも、自分の事を本気で心配して、好意を抱いてくれてる事の方が重要だった。
「にゃ……」
桃菜は本日何度目かの赤面をしたのだった。