同居が始まったでごわんす
「首輪ついてねぇなぁ。野良猫か?」
和也はそう言って猫桃菜を抱きかかえた。
「ふにゃっ!?」
急に好きな人に抱かれた桃菜は、恥ずかしさに一瞬で顔を真っ赤にした。因みに桃菜も薄々気づいているが、桃菜は日本語で喋ってるつもりでも、聞いている相手には猫語にしか聞こえないのだ。
「にゃにゃにゃん!(たた竹内くんっ!)」
「うわっ、暴れんな。にしてもこの猫って鳴き方変わってんなぁ……ん?」
ふと視線を落とした和也の目に入ったのは……
「制服? しかも女子のじゃん」
そう、桃菜がさっきまで着ていた制服だった。
「にゃあっ!(それは私のっ!)」
「誰か脱ぎ捨てたのか? ハレンチな奴だな……」
「ふにゃあ!(違う!)」
和也は若干戸惑った様子で桃菜の制服の上半身を拾い上げた。
―ズルリ
と、制服の中から落ちる衣服。
「ん? なんだこ……」
そこまで言って、和也の動きが止まった。
そしてみるみるうちに顔が赤くなっていく。
「ふにゃあ"っ!!(それはダメ゛ェッ!!)」
猫桃菜が急いで隠すが、時すでに遅し。
もう和也は桃菜のブラジャーを見てしまったのだ。
「い……今の……」
和也が戸惑いながら、猫桃菜が隠したブラジャーを見た。残念ながら、猫の桃菜じゃ上手く隠しきれなくて、四分の一ほど見えている。
「うわっ……ヤバい、誰のか知らんけど見ちまった……どうする……きっとパンツもあるよな……放置するべきか、見てしまってもいいから処理するべきか……おい猫、どっちがいいと思う」
「にゃっ? にゃあにゃ……(えっ? どっちも困るよ……)」
「と、取り敢えず……見ないように隠しとくか……」
そう言って和也は、なるべく見ないように桃菜の制服を拾い上げ、人目につかない場所へ置いた。その後に猫桃菜もこそこそブラジャーを制服の下に隠す。桃菜としては、人目につかないとは言え、放置は恥ずかしかったが今はそれしかないため大人しく従った。
「よし。ひとまずこれでいいな。あとは……」
和也は猫桃菜を見て言った。
「この猫どうするか……」
「うにゃ……」
桃菜も内心不安だった。このままではもう友達にも親にも会えない。それはさすがに嫌だった。
しかも野良猫として生きていくなんて、もってのほかだ。
「にしても、可愛い猫だよなぁ」
和也が猫桃菜を持ち上げて言った。
「ふにゃっ!?」
桃菜としては、好きな人に面と向かって「可愛い」と言われたようなものだ。それはそれは赤面をした。
そしてもう一度和也を見ると、何故か決意をした目になっていた。
「よし、決めた。お前を飼う」
「にゃ?」
猫桃菜は一瞬、和也が何を言ってんのか理解出来なかった。
そして頭の中で和也の言葉を五回ほど繰り返した後、やっと意味を理解した。
「にゃああああ!?」
桃菜はこれ以上ないほど驚いた。
野良猫よりは飼い猫の方が嬉しいが、その相手が愛しの和也。桃菜は嬉しいやら不安やら複雑な心境になった。
「名前は、そうだなぁ……」
和也は猫桃菜をしばらく見て思案した後
「決めた。お前の名前はミーナだ!」
と言った。
「いいだろ? なんかお前ミーナって感じだもんな。うん」
自信満々に頷く和也を見て、桃菜は愛しの和也に名付けてもらった感動に酔いしれていた。
「よろしくな、ミーナ!」
目の前に浮かぶ、カッコいい笑顔に桃菜は同居も悪くないかも、と思っていた。
しかし、桃菜はすぐに自分の判断が間違っていた事に気がついたのだった――。