92話 朱希羅vsバーリル
魔人化が解けてしまったシンはバーリルに圧倒され、戦闘不能の状態となってしまった。
そんなバーリルの前にシンに代わって朱希羅が立ち塞がる。
「お前の相手は俺だ」
「次から次へと……いいだろう、殺してやる」
すると朱希羅はバーリルへ向かって走り出した。バーリルは迎え撃とうと態勢をとったが、朱希羅は攻撃態勢を取ったまま、瞬間的にバーリルの目の前に移動した。まるでテレポーテーションしたかのような速さだった。
(速っ……⁉︎)
バーリルは咄嗟に防御の姿勢をとり、何とか朱希羅の攻撃を防ぐと、バーリルは朱希羅の拳を掴み遠くへ投げ飛ばした。
空に浮かぶ巨大な眼球、巨人の目玉はその戦闘の様子をはっきりと視界に抑え、ガルドの脳と直接繋がっていた。
(あれが矢崎朱希羅がかつて魔人に選ばれし三悪魔から得た能力、時間停止自ら以外の時間を止め行動することができる能力。しかし、時間を止めた後は2秒間、再び止めることはできない。それがあの能力のリスクだったな)
ガルドはそう考えながら、ゴルガとネヴァたちの様子を伺った。建物内の情報は建物全ての壁に出現した目玉によって得ることができた。
(デュージルと交代したゴルガはまだ気絶しているままか。まぁしかし、精神を操る“白魔術”がここまで強力だとは思わなかったな。さすがホワイト王家が造り出した魔術とでも言おうか)
投げ飛ばされた朱希羅は態勢を整え、着地すると、すかさずバーリルが朱希羅へと襲いかかっていた。
「お前もその程度か!」
バーリルはそう怒鳴りながら朱希羅へと攻撃を仕掛けたが、バーリルの攻撃は避けられ、朱希羅はバーリルを殴り飛ばした。
「ぐお!」
「その程度っていうのはどの程度だ?」
朱希羅はそう言うと、バーリルは苛立ちながら起き上がった。
すると起き上がったバーリルにすかさず朱希羅が殴りかかった状態で瞬間移動してきていた。
(またコイツ、瞬間移動を⁉︎)
朱希羅は瞬間移動をしているのではない。時間を停止させ、停止した時間の中で移動しているのだ。
バーリルは朱希羅のパンチを防ごうと防御を取ったが、パンチより速く蹴りがバーリルの防御を崩し、防御を崩したバーリルに向かって朱希羅は渾身のパンチを放った。
しかし、バーリルはそのパンチを避ける態勢を取っていた。
(危なかった。そのパンチのスピードがもう少し速ければ食らってーー)
バーリルはそう思いながらパンチを避けたが、ふと気がつくと避けたはずのパンチがバーリルの顔面に直撃した。
(ーーなんだと⁉︎)
「甘い」
朱希羅のパンチはバーリルの顔面にめり込み、その威力でバーリルを砦の壁に吹っ飛ばした。
砦の壁に直撃したバーリルは咳き込みながら、ゆっくりと起き上がった。
(バカな……確かに奴のパンチは避けたはずだ!……奴との近接戦闘はマズい……!)
バーリルはそう考えると、無数の氷の礫を発生し、その礫をマシンガンのように朱希羅へと放った。
(能力発動まで後0,24秒)
朱希羅はそんなことを考えながら氷の礫を避け続けたが、氷の礫のスピードは速く、一つの礫が朱希羅の右足に直撃し、朱希羅の右足の一部を凍結させた。
足を凍結させられた朱希羅は足を動かすことが困難になり、その隙をバーリルは逃さず何発もの礫をマシンガンのように飛ばした。
「死ねェ‼︎」
氷の礫が朱希羅に直撃する瞬間、朱希羅の姿は突如消え、バーリルの背後へと移動していた。
(……ッ‼︎)
バーリルはすぐに背後を振り向き、防御を取ろうとしたが、バーリルが防御を構えるよりも速く、朱希羅はバーリルを殴り飛ばした。
殴り飛ばされたバーリルはすかさず朱希羅に向かって炎の塊を飛ばしたが、その炎は朱希羅の目の前で進行方向を変え、砦の壁に直撃した。
その戦闘の様子を見ていたリケッドは驚きながらも朱希羅を讃えていた。
(あれが松田隼人の右腕と言われる矢崎朱希羅。時間を操る時間停止と空間を操る空間の時計。この二つを扱うことから、悪魔界では“時空”とも呼ばれている)
朱希羅は苦しそうな表情を浮かべるバーリルにこう言い放った。
「どうした。その程度か」