90話 強き者
青年体バーリルと魔人化したシンはほぼ互角の激闘を繰り広げていた。
その戦いをただ見ることしかできないクラネとトネイルそして江川は、キルビスへと問いかける。
「じゃあ、今のシンは魔人化を完璧にコントロールすることができるんだな?」
トネイルはそう問いかけると、キルビスは誇らしげに答えた。
「そうじゃ。この短時間でコントロールできたのも、ワシの指導のおかげじゃわい。ほっっほ」
「だが、魔人化したシンとバーリルが互角なんだ!魔人化の効力が切れた後、再び魔人化するまでが不利になる!」
江川はそう言うと、クラネがムチを構えて言う。
「なら、その時は私たちも援護した方が良いわね!シンが再び魔人化するまで!」
そんな会話をしているとも知らずに、魔人化しているシンはバーリルを前にゆっくりと戦闘態勢を取った。
するとバーリルはシンへと向かって走り出した。バーリルは走りながらどんどん加速していき、ついには目では追えない速さまで加速した。
そして瞬間的な速さでシンの目の前に移動すると、バーリルはシンを叩き潰そうと拳を振り下ろした。
しかし、シンは攻撃を瞬間的な速さで避け、バーリルから距離を取った。
すると再びバーリルは瞬間的な速さでシンの目の前に移動し、攻撃を仕掛けると、またまたシンはその攻撃を瞬間的な速さで回避した。
「逃げるだけか!」
バーリルはそう問いかけると、距離を取ったシンはバーリルへ向けて指を自らに指し答えた。
「どうした、さっさと来いよ」
「この青二才が。調子に乗るなよ」
バーリルはまんまとシンの挑発に乗り、シンへと向かって走り出した。
そしてシンの目の前から攻撃を仕掛けるバージルだが、またまたその攻撃はシンには当たらず、回避されてしまった。
「コノッ!」
バーリルはすかさずシンに攻撃を仕掛けたが、今度はシンがバーリルに迎え撃ち、バーリルの腹部に強烈なパンチを打ち込んだ。
「ぐ……お……‼︎‼︎」
バーリルは腹部を手で押さえながらその場に膝を付き、シンはそんなバーリルを宙へ蹴り飛ばした。
蹴り飛ばした直後、シンは宙にいるバーリルへ向けて雷撃を放った。雷撃はバーリルに直撃し、バーリルは雷撃によって天井に押し抑えられた。
その部屋の天井から激しい雷が舞い散り、バーリルがいた天井付近で爆発が発生した。
「すごい!圧倒してる!」
クラネはそう言っていたが、江川は不安を抱いていた。確かに今は魔人化しているシンが圧倒的に有利だが、シンの魔人化の効果が切れてしまった場合、再び魔人化するまでは通常のシンとバーリルでは、バーリルの方が上手なのだ。江川やクラネが参戦したとしても恐らくバーリルには太刀打ちできない。
江川は既に知っていた。江川とバーリルには圧倒的な戦力差があることを。
「頼むぞ……シン!」
江川は魔人化しているシンにそう言った。
天井を覆っている爆煙の中からバーリルがゆっくりと姿を現した。
「認めてやろう、お前は強い。俺をここまで追い詰めるとは思っていなかったぞ。もっと俺を、楽しませてくれ!」
バーリルはそうシンに言うと、天井を蹴りつけ真下にいるシンへと急降下した。
急降下しつつバーリルは攻撃を仕掛けたが、その攻撃は避けられ、その部屋の床に地割れが発生し、多量の土煙が舞った。
その土煙が舞う中、バーリルは絶え間無くシンへと攻撃を仕掛けた。しかし、バーリルが放つパンチも蹴りも、全てシンは避け続けた。
しかし、シンは気がつくとその絶え間無い攻撃によって壁へと追い詰められていた。
逃げ場が無くなったシンはバーリルのパンチを紙一重で避けると、そのパンチは壁を貫き、建物の壁の一部が崩壊した。
シンは壊れた壁の隙間から建物の外に出た。バーリルもシンの後を追うように外に出てきた。
シンとバーリルが出てきたその場所は、その白龍本部の広場のような場所で、周りは砦や建物に囲まれている場所だった。
そんな場所でバーリルはシンに向かって大声で怒鳴った。
「もうちょこまかと逃がさんぞ!ここでズタズタにしてやる!」
「逃げはしねぇよ。それにズタズタにするのは俺だ。バーリル!」
シンはそう言いながら、バーリルへと攻撃を仕掛けた。