89話 シンVSバーリル
青年体となったバーリルの前に、為す術もなく圧倒される江川たちだったが、その戦場にキルビスの魔術によって神谷シンが遠距離瞬間移動してきた。
シンは一人で青年体のバーリルに戦いを挑む。
「どうした?痛めつけるんじゃなかったのか?」
殴り飛ばしたバーリルへ向かってシンはそう問いかけた。バーリルは起き上がると、シンをもの凄い目で睨み付ける。
「お前……生意気だな。そんなに俺に殺されたいのか」
「いや、違う。俺がお前を殺すんだ」
シンはそう答えると、再びバーリルへと向かって走り出した。バーリルはその場で態勢を整えながら迎え撃った。
バーリルに向かってシンはパンチを放とうとすると、バーリルはそのパンチを難なく避け、逆にシンへとパンチを放った。
シンはバーリルが放ったパンチを避けると、再びパンチを放った。そのパンチは最初に放ったパンチよりスピードが速く、バーリルもそのパンチは避けられなかった。
バーリルは殴り飛ばされ、シンは殴り飛ばした後、ゆっくりと息を吐きながら力を抜いていた。
そんな様子を見たクラネは言う。
「すごい、シンはバーリルと互角、いや、バーリルを追い詰めている!」
「一体、日本でどんな修行をしてきたんだ⁉︎少なくとも灯城と戦っていたときとは別人のようだ」
トネイルがそう言っていると、トネイルの隣に魔法陣が現れ、その魔法陣からキルビスが出現した。
「おー、やってるのぉ」
「キルビスさん、お久しぶりです」
そこに現れたキルビスに江川はそう挨拶すると、キルビスは江川に質問した。
「今、状況はどうなっとんじゃ?松田隼人は?」
「松田隼人は今、あそこにいるバーリルを倒すためにこのアジトのどこかにある悪魔の継承を探しに行っています。そして我々はその時間稼ぎです」
「そうかそうか。どうじゃ、神谷シンの戦いっぷりは?」
「……バーリルを圧倒しています。一体、どうな修行を?」
「なーに、ちょっと工夫した戦い方をしているだけじゃ。シンにしかできない戦い方をな」
キルビスはそんなことを言っているが、シンはキルビスの存在に気づかず、そのままバーリルへと追い打ちを仕掛けた。
キルビスはシンの戦いを見守りながら説明し出した。
「元々、神谷シンは自らの戦闘力を10倍くらい上げることができた。それが魔人化じゃ。身体の外部に出現させた魔神のオーラを体内に引き込めることによって魔人化ができる。じゃが、その魔人化はリスクが大きい。まず、その体感時間。時間はおよそ8分。一度魔人化すれば、ある程度の睡眠を取らなければ魔人化できない。それを克服したのじゃ」
キルビスがそう話を進めているうちに、シンはバーリルに攻撃を仕掛けようとしていた。
「では、どう克服したのか。というものだが、つまり、戦闘力が10の状態から、一瞬で10倍して100になるには、身体への負担が重過ぎたのじゃ。なら、その負担を軽くするためにはどうすれば良いのか、ウォーミングアップのように少しずつ魔人化に近づければ良いのじゃ。それにはまず魔人化以前の魔神のコントロールが必要じゃった。そしてコントロールできたならば、次に行うのは身体の一部分のみを魔人化させることじゃ」
キルビスが話を進めているうちに、シンはバーリルにパンチを放った。しかし、バーリルはシンのパンチを片手で受け止め、もう片方の手でシンにパンチを放ったが、シンはそのパンチをギリギリ避け、それと同時にバーリルを蹴り飛ばした。
「今の攻防で既に神谷シンは少しずつ魔人化しておるぞ。魔人化するには魔神と融合するための極端な集中力が必要じゃ、その集中力を一つ一つの動作で高めているのじゃ。攻撃・防御・回避、全ての戦闘行動が神谷シンには“集中力”として蓄積される。そしてその集中力が一定水準に達した時、神谷シンはーー」
キルビスがそう話している一方で、シンは蹴り飛ばしたバーリルに向かって再び攻撃を仕掛けた。しかし、バーリルも態勢を整え、シンへと攻撃を仕掛けた。
「このガキ!調子に乗るなよ!」
バーリルはそう怒鳴りながらシンへと攻撃を仕掛けた。シンはその攻撃を避ける瞬間、キルビスはこう言い放った。
「ーー神谷シンは身体に負担をかけることなく魔人化できる!」
シンがバーリルの攻撃を避けた瞬間、シンの瞳に一筋の電光が駆け巡り、魔人化したシンはバーリルを殴り飛ばした。
「魔人化の変化時間は前と変わらず8分じゃが、身体に負担をかけていないため、解けた後、再び魔人化することも可能じゃ」
キルビスはそう説明すると、クラネが目を輝かせながら呟く。
「もしかしたら!もしかしたらバーリルを倒せるかもしれない!」
「いや、それはわからないぞ」
クラネの発言にトネイルはそう答えると、殴り飛ばされたバーリルが起き上がりながらシンへと話しかけた。
「なるほど、ただのガキではないってことだな。ここからは真剣に戦うことにしよう」
「……本気で来るなら本気で来い」
魔人化したシンはそう言い放つと、両者、睨み合いながら戦闘態勢を取った。
戦闘態勢のまま、しばらく硬直しているとバーリルが突然、魔術で生み出した無数の氷の塊をシンへと放った。
シンはその無数の氷を全て避けながらバーリルへと走り出した。シンは超高速で閃光のように氷を避け、バーリルの目の前に迫って来た。
シンはバーリルにパンチを放つと、バーリルはそのパンチを片腕でガードし、もう片方の手でシンにパンチを放つと、シンはそのパンチを片腕でガードした。
互いに攻撃と防御を繰り返し、殴り合いの状態になっている中、シンはバーリルに蹴りを放った。しかし、バーリルはその蹴りを受け止め、シンの片足を両手でしっかりと掴むと、シンを空中に投げ飛ばした。
「死ねぇッ‼︎‼︎」
バーリルは空中に投げ飛ばしたシンに向かって片手の平から炎を放射した。が、シンも投げ飛ばされたと同時にバーリルに片手から雷撃を放ち、雷撃と炎が衝突し合い、爆発が発生し爆煙が二人を包み込んだ。
爆煙の中でバーリルとシンがお互い同じタイミングでパンチを放つと、その両者の攻撃の衝撃で爆煙は消し飛び、シンの拳はバーリルの、バーリルの拳はシンの頬に直撃していた。
あまりの攻撃の威力に両者、意識が少し遠のいていたが、バーリルがすぐに意識を取り戻し、まだ意識が遠のいているシンを蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされたことによりシンも意識を取り戻した。態勢を整え、バーリルから少し離れ、バーリルを見てシンは言い放った。
「どうやら真剣に戦うってのは、ハッタリではなかったようだな」
「そうやって余裕こいていられるのも今のうちだぞ、ガキが」
バーリルはそうシンへと言い、戦闘態勢へと移った。