88話 青年体
「お前の相手は俺だ!バーリル!」
青年体となったバーリルに向けて江川はそう言い放つと、バーリルは少しクスクスと笑いながら答えた。
「俺も舐められたものだな。まさか一人で戦う気か?」
「一人で戦う気だが、舐めちゃいないよ。むしろ、恐いさ」
「どうだかねぇ」
バーリルはそう言うと、猛スピードで江川へと走り出した。
江川はそれに迎え撃つように二本の刀を構え、バーリルへと走り出した。江川はバーリルに向けて刀を振ったが、バーリルの硬い拳は刀を弾き、江川へと強烈なパンチを打ち込んだ。
あまりにも強烈なパンチを打ち込まれた江川はその場で動けなくなってしまい、バーリルに呆気なく胸ぐらを掴まれた。
「どうした?戦うんじゃなかったのか?このままだと、戦いごっこに変わってしまうぞ?」
江川の胸ぐらを掴んだバーリルはそう言うと、江川の顔面に何発もの攻撃を与えた。
そんなバーリルに向かって鎖状のムチが襲いかかった。クラネがバーリルへと攻撃したのだ。
バーリルは江川の胸ぐらを手放し、ムチを避けると、クラネへと視線を向けた。
「俺は女だからと言って容赦はしないぞ」
バーリルはそう言いながらクラネへと走り出すと、突如、クラネの目の前に魔法陣が現れた。
「え?」
「魔法陣が!」
クラネとトネイルもその魔法陣の出現に驚いた瞬間、その魔法陣から何者かが召喚され、クラネへと走っていたバーリルを蹴り飛ばした。
江川は起き上がり、その魔法陣を見て呟いた。
「あの魔法陣は遠距離瞬間移動の魔法陣。そんな魔術を使えるのは……キルビスさんくらいか」
その魔法陣から現れた者はトネイルとクラネに言う。
「遅れてすまない。嫌な気配を感じてこっちへ飛ばしてもらったんだが、どうやら当たりだったようだな」
魔法陣から現れたのはシンだった。
日本で修行していたシンがキルビスの遠距離瞬間移動の魔術によってこちらに飛んできたのだ。
「状況は絶望的だったが、一気に逆転したな!江川さんとシンが手を組めば、松田隼人が戻ってくるまでの時間稼ぎは充分!もしかしたらバーリルを倒せるかもしれない!」
トネイルはそう言うと、シンはこう言い放った。
「いや、俺一人で充分だ。新しい技を試すには絶好の機会だからな」
「おいおい、まさか俺を相手に一人で来る気か?」
バーリルはシンへそう問いかけると、シンは答える。
「そうだ。時間稼ぎなら、俺一人で充分だと言ったんだ」
シンはそう言いつつ戦闘態勢を取ると、バーリルがシンへと向かって走り出した。
「面白い!お前は簡単には死なせんぞ!たっぷり痛みつけてからだ!」
走ってきたバーリルに向かってシンも迎え撃とうとし、両者は正面から攻撃を仕掛けた。
お互いに正面からパンチを仕掛けたが、若干、仕掛けたタイミングがバーリルのほうが速かった。しかし、シンがパンチを仕掛ける瞬間、シンの身体が一瞬だけ魔人化したことにバーリルは気づいた。
バーリルが放ったパンチはシンがパンチを放つタイミングより速かったが、パンチが直撃するのはシンのパンチのほうが速かった。
シンは自らが殴り飛ばされる前にバーリルを殴り飛ばした。
殴り飛ばしたバーリルに向かってシンはそう問いかける。
「どうした?痛めつけるんじゃなかったのか?」