87話 球体が割れる時
朱希羅は殴り飛ばしたコズムへと向かって走り出した。態勢を整えたコズムも朱希羅へ迎え撃とうとし、両者、正面から殴り合おうとしていた。
しかし、次の瞬間朱希羅の姿が瞬間的に消えると、朱希羅はコズムの背後に瞬間移動していた。
コズムは背後を振り向くと、そこには瞬間移動した朱希羅が右ストレートを放つ姿勢で立っていた。
コズムは防御の姿勢をとったが、あることに気づいた。
(右ストレートが来る前に必ずどこかから攻撃が来る!そこ攻撃さえ注意すれば!)
コズムが他のパンチに集中していると、朱希羅が放った右ストレートがコズムの防御を貫き、コズムを殴り飛ばした。
「そんな防御じゃ、防げんぞ」
そのパンチが急所にヒットしたのか、コズムは気を失い、その場に倒れこんでしまった。
朱希羅はリケッドにこう問いかける。
「どうだ?わかったか?」
「……んまぁ、なんとなく」
リケッドはそう答えると、朱希羅は何らかの邪気を感じ取った。
「……これは、すごいな」
「え?」
「悪魔でもない、人間でもない魔力みたいなの、感じないか?」
「……あまり、感じないッス」
朱希羅はその邪気を感じる方向を向いた。そしてしばらく黙り込んだ後、リケッドにこう言った。
「行こう。あそこで何かが起きているのは間違いない」
朱希羅とリケッドはその邪気を感じる場所へと移動しようとしていた。
その頃、バーリルが閉じこもった球体は破裂しそうな程パンパンに膨れ上がり、近づきたくないオーラを醸し出していた。恐らく朱希羅が感じた邪気とはこのことだろう。
江川はそんな球体を見て思わず呟いた。
「一体、どんな怪物が出てくるんだ。身体を切断されても死なない。魔術も使える。そんな奴がパワーアップするのか。それに比べてこちらは女戦士一人に俺が一人、そして弾切れを起こした銃士が一人。状況は絶望的だ」
「女だからってアタシを舐めないでよね!それにそんな絶望的なら味方を呼べばいいじゃない!黒虎連合の戦士をここに集めれば」
クラネが江川にそう言いかけたとき、トネイルが口を挟んだ。
「いや、ダメだ。とてもじゃないが、バーリルは集団で掛かれば倒せる相手ではない。無駄死が増え、逆に白龍連合本部の制圧が厳しくなるだけだ」
トネイルがそうクラネに言うと、クラネは黙り込んでしまった。すると、江川が二人に言う。
「とにかく、今は隼人が悪魔の継承を持って帰って来るのを待つしかない。俺たちにできるのは隼人が帰ってくるまで死なぬよう、時間を稼ぐことだ」
江川がそう言った瞬間、パンパンに膨れ上がった球体に一つのヒビが生じた。
バーリルの進化が完了し、外に出てこようとしていたのだ。
「……ッ‼︎来るぞ‼︎構えろ‼︎」
「進化……したのか⁉︎」
トネイルと江川はそう言い、三人は戦闘態勢を取った。
するとどんどんヒビの数が増えていき、球体は内側から爆発するように弾け散った。
「さて、最初に死にたいのはどいつだ?」
球体の内側から発生した煙幕の中から、青年体となったバーリルの声が部屋に響き渡った。
煙が晴れ、三人はバーリルの姿を見て、あまりの変化に驚きを隠せなかった。
身長はおよそ2m。筋肉質な身体つきはまるでボディビルダーのようだった。
とても先ほどまで四つ足歩きしていた幼稚体とは比べほどにならないほどの変化だった。
青年体となったバーリルに、二本の刀を構えた江川が言い放つ。
「お前の相手は俺だ。バーリル!」