84話 魔術師食す
「ヤッテクレタナ!コノヤロォォ‼︎」
上半身と下半身を切断されたバーリルは地面を手で叩きながら潰れた声を上げていた。
松田隼人は死神の黒剣を手に持ち、上半身だけのバーリルにトドメを刺そうとしていた。
「お前の身体はどうやら再生しないようだな。ならここで完全に消してやる!」
すると、その部屋に白いローブを着た女性が飛行しながらやってきた。
その女性はシェリーだった。シェリーがバーリルのいる部屋にやってきたのだ。
「新たな敵か」
松田隼人はシェリーを見るとすぐに戦闘態勢を取ったが、シェリーは松田隼人に必死に説得をしようとした。
「やめろ!私は確かに敵だが、お前を殺すつもりはない!」
「どういうことだ?」
「私はバーリルを封印する魔術を得ている!そのままそいつを野放しにすれば、そいつは“青年体”となり、黒虎連合も白龍連合も全滅してしまう!そいつが弱っている今のうちに封印する!だからその場からどけ!」
松田隼人は少し考え込んだ。シェリーの言う通りならば封印させるべきだが、これがもし罠だとすると。
そう考えている内に、シェリーの背後から江川とクラネが走って来ていた。
「逃がさないわよ魔術師!」
クラネがそうムチを構えたとき、江川はそこにいた松田隼人とシェリーの状況を察したのか、クラネに攻撃させぬよう合図した。
「待てクラネ。僕は読心という心を見透かす能力を持っている。シェリーはあそこにいるバーリルという白龍兵を封印する気だ」
「なんですって?」
クラネはそう聞き返した。松田隼人はその江川の言葉を聞き、バーリルから離れた。
「どうやら本当らしいな。封印を頼む」
「あぁ。だが、封印したとき、私はお前たちを殺す」
シェリーはそう言いながらバーリルへと手を向けると、バーリルがシェリーの姿を目視した。
「女……ノ……魔術師、オレノ……敵……。殺……ス……‼︎」
バーリルはうめき声を上げながら、二本の腕で上半身を起こし、そのままシェリーへと腕で猛スピードで歩行した。
そのスピードはまるで腕で歩行しているとは思えないほど速く、シェリーが封印魔術を放つ前にシェリーの首に噛り付いた。
そしてシェリーの首を切断すると、シェリーの頭部の脳に噛り付いた。
ネチャネチャと音を立てながら脳みそを食べたバーリルは上半身だけのまま、空中に浮いた。
「コレガ、魔力ヲ操ッタ状態カ。ククク、ドレホドノモノカ、試シテ見ルカ」
空中に浮いた上半身だけのバーリルは松田隼人に片手のひらを向けた。
するとバーリルの片手に冷気のような魔力が宿り、その片手から無数の氷の塊が松田隼人に向け発射された。
松田隼人はその氷の塊を避け続け、物陰に隠れる。
「さっきの魔術師の脳みそを食って魔術を使えるようになった。ってのか⁉︎だが、奴は魔法結晶を持っていないはず!魔術を使うには魔法結晶が必須のはずだ!」
「シンは魔法結晶無しで魔術を使えるのだろう?それと同じ仕組みではないのか⁉︎」
「シンのあの雷の魔術は雷神一族の技だ。風神一族と雷神一族の風と雷の魔術は魔法結晶を必要としない!だが、今バーリルが放った魔術は氷だ!風でも雷でもないなら、魔法結晶が必要なはずなんだ!」
松田隼人とトネイルはそんな会話をしていると、バーリルが片手に水の魔力を宿してこう言った。
「カカッテコナイノ?ソノてーぶるノ裏ニイルノハワカッテルンダヨ」
バーリルはそう言いながら片手から細く物凄い水圧の水の魔力を放った。
その水はレーザーのように水圧でテーブルを貫いた。
「松田隼人!」
テーブルの裏にいた松田隼人に向けトネイルはそう声を上げたが、テーブルの裏に松田隼人の姿は無く、松田隼人は死神の黒剣を構え、空中にいるバーリルへと攻撃を仕掛けていた。
「どんな仕組みかわからねぇが、頭を切っちまえば魔術は発動できねーだろ‼︎」
松田隼人はそう言いながらバーリルの首を斬りつけようとしたが、バーリルは斬られる寸前に自らの身体の周りに魔力を発生させ、また球体の中に閉じこもってしまった。
その魔力でできた球体によって剣は弾かれ、バーリルに斬りつけることはできなかった。
「くそ!またこれか!」
「球体に閉じこもった!また姿を変える気か⁉︎」
トネイルはそう言うと、江川はシェリーが言っていた言葉を思い出した。
『そのままそいつを野放しにすれば、そいつは“青年体”となり、黒虎連合も白龍連合も全滅してしまう!』
江川はシェリーの言葉を思い出しながら、球体に閉じこもったバーリルを見ていた。
「まさかその“青年体”とやらになろうとしているのか?先ほどの素早さ、隼人の攻撃を防ぐ反射神経の良さ、それが青年の身体で行われるのならば、その戦闘力は圧倒的だ」
「そんな、そんな怪物が現れたら勝ち目がないじゃない!あいつは魔術も使えるのよ!」
クラネが弱音を吐いていると、松田隼人が江川に言う。
「確かにこのまま戦えば俺たちが死ぬ。だが、奴を倒す方法が一つだけある」
「……倒す方法?」
「悪魔の継承だ。この白龍基地のどこかにそれはある。恐らく何かの実験に使われているはずだ」
「そうか。悪魔の継承の悪魔化は、本来の力の数倍の戦闘力を得ることができるからな。だが、悪魔の継承を見つける前にバーリルが球体から出てきたらどうする?」
「俺が悪魔の継承を見つけて戻ってくるまでの時間を稼いでくれ。必ず戻ってくる」
「わかった。ここは俺に任せろ」
江川はそう言うと、死神の黒刀と日本刀を構え、バーリルが閉じこもっている球体の前に立った。
松田隼人は悪魔の継承を探しにその場を後にした。
その頃、デュージルの精神世界ではデュージル、ジウルとゴルガの戦いが始まろうとしていた。
「この身体の全盛期を操作していたのは俺だ。お前らは黙って陰に入ればよい」
ゴルガは凄まじい殺気を二人に放ちながら、戦闘態勢を取った。