81話 もう一人のバーリル
トネイルの前に姿を現したバーリルは唾液を垂らしながらトネイルを睨みつけていた。
「オマエ……コロス……ハハノモトへ……ツレテイク……」
トネイルは両手に拳銃を構え、バーリルへと無数の銃撃を放った。
バーリルは頭と右胸、そして左足を撃ち抜かれたが、何事もなかったのように立ち尽くしていた。
(コイツも不死身か⁉︎いや、灯城の側近だったマラフやビューカーの身体は傷を負った直後再生していた……)
トネイルはあることに気づいた。不死身ならば傷を負った直後に身体が元の姿に再生するはずなのだ。しかしバーリルは傷を負っても再生せず、銃弾で撃ち抜かれた跡から血がドクドクと垂れていた。
(奴は不死身ではない……。だが、銃弾で撃ち抜かれてビクともしないということは。痛みを感じていない。とでも言うのか)
トネイルがそう考えついた瞬間、すぐにバーリルが四足歩行でトネイルに向かって走り出した。
その姿はまるで獣のようだった。鋭い牙をトネイルに向けて首を噛みつこうとしたが、トネイルはバーリルの両足を撃ち抜き、バーリルの動きを一時的に止めた。
(奴は痛みを感じることは無い。だが奴自身の身体はそれなりのダメージを受けている。つまり奴は自分の意思だけでこの身体を動かしているということか。このまま奴にダメージを与えて行けば、奴は意思だけでは身体は動かなくなる。このまま押せばいける)
トネイルはそう考え、足を撃ち抜かれ一時的に動けなくなったバーリルに容赦無く、銃弾を何発も撃ち込んだ。
その部屋には銃声が絶え間無く響いていた。
「オマエ……コロ……ス……コロ………」
バーリルはやがて何かを喋る余裕すらないほど激しく銃弾を何発も撃ち込まれていた。
トネイルはとにかくバーリルに銃弾を撃ち込んだ。何発も何発も絶え間無く撃ち込んでいた。
そして銃弾が残り3発しか無くなったトネイルは銃撃を止め、バーリルの様子を伺った。
何発も絶え間無く撃ち込んだのだ。身体は相当なダメージを負い、バーリルが平常に動くことができるなど不可能なはずだ。
トネイルはそう思いながら、銃を構えつつ伺った。
「……死んだのか?」
「……ォ……ォ……マ……エ……」
「……ッ‼︎」
「コロ……ス……‼︎」
その瞬間、なんとバーリルは起き上がりトネイルへ向かって二足歩行で走り出したのだ。
牙をトネイルへ向けて襲い掛かるバーリルに向かって、トネイルは残り3発しかない銃弾のうち1発を使い、バーリルの頭を撃ち抜いた。
しかし、バーリルは四足歩行で再びトネイルへと襲い掛かる。
(クソ‼︎いくら撃っても死なない‼︎まさか死んだ身体を意思で動かしているとでも言うのか⁉︎)
「オマエヲコロス‼︎」
(マズイッ‼︎‼︎‼︎)
トネイルは首を噛み付かれる瞬間、その光景が恐ろしいものだと気づいた。
怪物が自らの首に噛み付こうとする姿を、しっかりと目に焼き付けたのだ。
しかし次の瞬間、バーリルは急に動きを停止した。
首を喰いちぎられる瞬間、バーリルは何故か襲うのを止めその場に立ち尽くしてしまったのだ。
(……攻撃を止めた⁉︎なんだ⁉︎どうなっている⁉︎)
トネイルは急停止したバーリルから急いで距離を取った。足を震わせながらトネイルはバーリルへと問いかけた。
「俺を……殺さないのか?」
「……僕は人を殺めたくない。だけど、また死んでしまったの?」
バーリルは普通に会話したのだ。しかも先ほどとは全く矛盾した言葉を発しており、バーリルは赫花の隊長の死体を見て悲しそうにそう言った。
トネイルはこれがバーリルの本当の人格なのではないのだろうかと気づき、さらに問いかけた。
「人を殺したくないのなら、なぜ人を殺す?」
「今、この身体をコントロールできているのは僕じゃない。僕の中の別人が動かしているんだ。僕はこうやって目が覚めると必ず屍の前に立っている」
「何とかその人格を保つことはできないのか?」
「む、無理だ。人格が変わってしまうのは全てガルド様の魔術の効果だ。ガルド様の魔術には逆らうことはできない」
「……お前を止めるには、ガルドを倒せば良いのだな?」
「……ガルド様は殺させはしない」
「なんだと?」
するとバーリルは頭を抱え込みながらこう話していた。
「ガルド様は言ったんだ!命令に従えば母さんのところへ連れて行ってくれると!僕は母さんに会いたい!そのためなら悪魔に魂を売ってもいい!オマエガ……ジャマヲスルト……イウノナラバ……‼︎」
「まずいっ‼︎」
トネイルは残り2発しか銃弾がない拳銃を構え、戦闘態勢を取った。
先ほどまで大人しかったバーリルは再び鬼のような表情でトネイルに言い放った。
「オマエ……コロス……‼︎」
すると猛スピードでバーリルはトネイルへと襲い掛かった。トネイルは銃弾を放とうとしたが、あまりにもバーリルのスピードが速く撃つことができなかった。
トネイルは目の前が真っ暗になった。
「随分勇ましく出撃したと思ったら、案外手こずってんじゃねーか。黒虎連合」
誰かがトネイルにそう言った。トネイルは目を開けるとそこにはバーリルはいなく、部屋の壁に吹っ飛び衝突していた。
「ど、どうなっている⁉︎」
その頃、他の戦場でも同じようなことが起きていた。
魔術師のシェリーに苦戦していたクラネだが、そこに一人の刀を手に持ちメガネを身につけている男が現れていた。
「アンタ、誰?白龍連合でも黒虎連合の者でも無いわね?」
クラネはそこに現れた男にそう問いかけると、メガネを身につけている男はこう答えた。
「江川とでも呼んでくれ。俺はどちらの連合にも属してはいない。最強の魔術師の生まれ変わりの友人だ」
リケッドとコズムの戦場には朱色の髪をした男が現れていた。
「アンタは、確かこの悪魔の鉄拳の元の持ち主だったんスよね」
「そうだ。隼人からその武器を預かった黒虎兵というのはお前か。俺の名は矢崎朱希羅だ。お前の味方だ。心配するな」
トネイルは訳がわからず混乱していた。殺されると思い目を閉じると、突然、バーリルが吹っ飛ばされていたのだ。
混乱しているトネイルの肩に誰かが手を置いた。
トネイルは後ろを振り向くと、その肩には松田隼人が手を置いていたことに気づいた。
「もう安心しろ。お前は下がれ。ここからは俺が闘る」
松田隼人はそう言いながらバーリルの前に立ちふさがると、こう言い放った。
「俺たち独立パーティ朱瑩は、黒虎連合に所属する者を……死守する‼︎」
黒虎連合に最強の援軍が現れた。