77話 交代
ガルドがとある魔術の準備をしていたその頃、豪蓮パーティは司令室の近くまで来ていた。ここでガルドを倒すことができれば、黒虎連合は大逆転するのだ。
「司令室はこの先だ!きっとジラ・バーバリタスは司令室にいるだろう!」
「よし、いくぞ」
メルタとデュージルはそのような会話をしながら司令室へと向かった。
ちょうどその時、ガルドの魔術とやらの準備が完了した。さっそくガルドはその魔術の発動を試みた。
「敵はもうそこまで来ているな。早急に始めなければ。あの灯城やゴルシャを我が手に収めた魔術だ。もうお前は私の物だ」
ガルドはそう呟きながら、魔法陣が記された紙を取り出した。その紙に手を添えると、魔法陣から青紫色の魔力が放たれた。
その青紫色の魔力は白龍本部を包み込み、白龍本部は青紫色の丸いドームの中に飲み込まれてしまった。
そのことに侵入部隊は気づいていなかった。青紫色の魔力が見えていないのだ。しかし、一人だけその魔力の姿が見える者がいた。それはデュージルだった。
「おい、大変だ!本部全体が魔力に飲み込まれてる!」
「……そんなことないぞ」
「司令室は目の前だ。早く行こう」
デュージルの発言は完全否定されていた。本当にデュージルしか青紫色の魔力は見えていなかったのだ。
デュージルは自分の目を疑いながら司令室へと歩き出した次の瞬間、突如激しい頭痛がデュージルを襲った。
「ぐああああああ‼︎うぅぅぅぁぁぁ‼︎‼︎」
その場にいた誰もがその様子を見て驚いた。デュージルはその場に膝を付き、床にしゃがみ込みながら頭を抱えている。
デュージルの身体に何が起きているか、トルシャとネヴァにはわからなかったが、メルタは気づいた。
「……まさか、デュージル!落ち着くんだ!」
「うぅぅぅぁぁぁ‼︎あああああ‼︎‼︎‼︎」
苦しむデュージルの脳裏に、三人の何者かの声が響き渡っていた。デュージルとジウルとそして何者かだ。
『お前の番も終わりだ。交代してもらおう。ジウル』
『まて!俺はこんな所で消えるわけにはいかないんだよ!デュージル、お前みたいにころころ交代したりは』
『やはり貴様らはまだ甘い。その甘さが己を弱くさせる。結局、灯城も俺の戦法があったから倒せた話だ。貴様らでは話にならん。俺と代われ』
『それは無理だな。あの頃の俺には戻りたくないんだ』
『また甘いことを』
そのような会話がデュージルの脳裏に響き渡っている中、三人の内の一人が巨大な手で掴まれた。
その巨大な手で掴まれた者は、三番目に発言した者だった。
『どうやら今回は強制的に交代させられるようだな。恐らくホワイト国で使われていた精神を司る白魔術だろう』
巨大な手に掴まれた者はそう言うと、その手が誰の手であるかをその者は確認した。
その手はガルドだった。ガルドはデュージルの脳裏にこう言葉を焼き付けた。
『見つけたぞ。お前を』
「うぅぅぅぁぁぁ‼︎あああああ‼︎」
デュージルの頭痛はどんどん痛みを増し、デュージルはただひたすら悲鳴を上げていた。
するとデュージルの身体に白い稲妻が駆け巡り、デュージルの身体は宙に浮き始めた。
白い稲妻のような魔力がデュージルを包み込み、まるでその魔力がデュージルの身体から溢れるように辺りに散った。
するとデュージルはその場に倒れ込んでしまった。
「デュージルさん!しっかりして!」
「……ネヴァ。恐らく彼は」
デュージルの無事を心配するネヴァにメルタはそう言いながら刀を構えた。
「彼はもう、デュージルじゃない」
「……は?」
メルタはそう言い放つと、デュージルはゆっくりと立ち上がった。
その姿を見たネヴァは少し安心した表情をしていたが、すぐにその表情は消え、二、三歩後ろへ下がった。
デュージルはメルタたち三人を睨みつけながらニヤついていたのだ。
「やっとか。自分で身体を動かすのに何年かかるんだ。全く」
「今の君は、ジウルだね?」
三人に敵対心を見せるデュージルにメルタはそう問いかけると、デュージルはこう答えた。
「違う。俺はジウルでもデュージルでもない。……俺の名はゴルガだ」