76話 逃亡の末に
司令室ではガルドが巨人の目玉と建物内の壁に発生した目玉を利用し、本部にある全ての者たちの状況を把握していた。
(ビューカーは決して良い流れではないが、時間稼ぎにはなっているな。やはり不死身というだけあって価値はそれなりにある。相手も冷静ではない。もう少し時間は稼げるな。シェリーのほうも4人の内3人を倒し、後はあの女のみ。他の侵入者たちは本部をウロウロ迷っているだけだ。そろそろ地下牢からバーリルを放ってもいい頃合いかもしれんな。しかし、1つの隊だけ、少し危ない場所にいるな。もしかしたら司令室に来る可能性もあるかもしれん。どうにかして排除しなくては)
ガルドの脳内には司令室の近くをウロウロしている者たちが映っていた。
その者たちとは、豪蓮だった。デュージルとトルシャ、ネヴァ、メルタの姿がはっきり脳内に映っていたのだ。
デュージルの姿を見たガルドはふとした疑問を抱いた。
(奴は……どこかで見た気がするが……。デュージルではなく、もう一人……まさか……いや、そんなことが……)
一方、トネイルとビューカーの対決はビューカーが勝てないと判断したのか、ビューカーは背中に生えた翼で飛び立ち、窓から逃げて行ってしまった。
「くそ!後を追うぞ!」
「待て。今の司令塔は俺だ。お前はサポーターである以上、俺の命令に従ってもらう」
後を追おうとするトネイルに隊長はそう言うと、隊長はこう指示を出した。
「ここをまず移動する。第一優先でジラ・バーバリタスを探し、途中、また奴を見つけたらそこで殺せ」
「……了解だ」
トネイルはそう答え、その指示に従った。
ビューカーは天使のような翼を羽ばたかせながら白龍本部の通路を高速で移動していた。よほどトネイルが怖いと感じたのだろう。ビューカーも不死身とはいえ痛みは感じるのだ。銃弾を何発も受ければ、身体中に酷い激痛が伴うのだ。
「こ、ここまで逃げれば!あのメガネ野郎も追って来ないだろ!……マジで死ぬかと思ったぜ」
ビューカーはそんなことを呟きながら通路を滑空していると、前方に白龍兵の服を着ている少年の姿が見えた。
ビューカーはすぐにその少年が白龍連合の者だと気づき、その少年の前で立ち止まった。
「白龍兵だな?この先は危ないぜ。厄介な拳銃使いがいるからな。だから白龍兵を集めて一気に拳銃使いを殺すぞ。お前は誰でもいいから囮に使えそうな白龍兵を集めて来い」
「……コロス」
するとその少年はビューカーの背中に生えている右片方の翼を片手で抜き取った。
「な、なにしやが」
ビューカーはその時、怖気ついた。
不気味な笑みを浮かべたその少年はビューカーの背中から抜き取った翼を食べていたのだ。
パキ、ポキ、と音を鳴らしながら翼を食べた少年はビューカーの方を見て、不気味な笑みを見せながらこう言った。
「……コロス」
ビューカーはその少年から逃げるように走り出した。片翼では滑空することができないため、走るしかなかった。
しかし、その少年は走り出すと一瞬でビューカーに追いついた。
「な、なんだこいつ‼︎」
その少年はビューカーの頭を両手ででしっかりと掴むと、その頭に喰らい付いた。
「やめろォォォォォォ‼︎‼︎‼︎」
ビューカーはそう叫んでいる途中、ガルドから言われた言葉を思い出した。
『バーリルを投入する。まぁ、万が一の可能性を考えての行動だ。バーリルを投入するから、お前たちだけを投入することにしたんだ。バーリルは敵だけでなく味方をも殺してしまうからな。お前たちならバーリルにも対抗はできるだろう』
(そうか、こいつがバーリル!シェリーが怪物って言ってた奴か!こんな奴にどうやって対抗するんだよ!こんな敵も味方も区別つかない奴に!このままじゃ、全め……)
ビューカーはそんなことを考えている途中、バーリルによって頭を喰い千切られてしまった。
バーリルはビューカーの頭の一部を食べながら、ビューカーの来た方向を見て、また笑みを浮かべた。
「アッチ……ヒトイル……。ソイツ……コロス……」
バーリルはビューカーが来た方向、つまりトネイルの下へと移動し始めた。
その頃、デュージルの正体に気づいたガルドはある魔術を発動させようとしていた。
ガルドはニヤつきながら、こう呟く。
「バーリルを放った!そして、こちらには切り札がある!これで黒虎連合も終わりだ!」