75話 魔術師シェリー
「津波が来るぞ!」
「くそ!これも避けらんねぇ!」
糸那の班員たちは何もできないままだったが、クラネは建物内にある柱に鎖状のムチを巻きつけてロープ代りにすると班員たちに向かって叫んだ。
「これに捕まって!そうすれば流されない!」
「お、おう!」
すると建物内でクラネたちに津波が押し寄せてきた。津波はクラネたちを飲み込み、建物内を水浸しにした。
班員たちはクラネの活躍により流されずに済んだ。しかし、シェリーは容赦無く次の攻撃を仕掛ける。
シェリーの片手には雷撃のような物が出現していた。
「また何かくるぞ!」
「まさかあれは!」
シェリーはその片手に宿した雷撃をクラネたちへと向けて放った。
電気は水を通して感電する。その性質を活かしたのだろう。
クラネは鎖状のムチの先端を雷撃へと飛ばし、雷撃とムチの先端を直撃させると、自らが感電してしまう前にムチから手を離した。
そうして何とか雷撃を防いだクラネはムチを手に取った。
このとき、クラネはムチが金属で良かったと心の底から思っていた。
するとシェリーがクラネへと話しかけた。
「よく防いだな。と言いたいところだが、防御で精一杯のようだな」
「そうね。でも貴方は見たところ魔術しか使えないらしいわね」
クラネはそう言うと、糸那の一人の班員がクラネへと問いかけた。
「随分余裕だが、奴をどう倒すつもりだね⁉︎」
「魔術には発動するために必要な発動条件というものが二つあるわ。一つ目は発動計算式。魔術というのは数学の世界のようなもの。水を生み出すためには空気内にある水蒸気と魔力をどのくらいの割合で調合させるか、とかね。発動計算式が間違っていたりすれば魔術は発動されない。それともう一つの条件が魔法結晶よ。魔法結晶とは奴が今片手に持っている石のこと。あの石が無ければ人の体内にある魔力を外へ放出することはできない。つまり魔法結晶とは体内にある魔力を体外へ導くための道具」
「ということは、あの魔法結晶を奪えば、奴は魔術を発動することはできないんだな⁉︎」
「そうよ。奪えればこちらの勝ち」
「奪えればの話だ」
シェリーはそう言うと、建物内に浸っている水を宙に浮かせ、無数の氷のトゲにに変化させると、その無数の氷のトゲを糸那の班員たちへと放った。
その無数の氷のトゲをクラネはムチで全て砕き壊すと、糸那の班員たちはシェリーへと攻撃を仕掛けていた。
「確かにクラネは防御で手一杯だが、俺たちはお前に攻撃できんだよ‼︎」
「八つ裂きにしてやる‼︎この魔女やろう‼︎」
「……甘い」
シェリーはぼそっと呟くと、自らの周りに岩の壁を発生させた。
班員たちはその岩の壁による防御により、攻撃をすることができなかった。
すると今度はその岩と岩の隙間から細いレーザーのような物が三人の班員たちの身体を貫いた。
頭を貫かれた者や心臓付近を貫かれた者がいた。三人とも即死に至った。
「これで1対1だな」
「望むところよ‼︎」
クラネはスタンガンのような手袋を取り出すと、その手袋を装備した手でムチを握り、言い放った。
「アタシの新しい武器を見せてあげるわ‼︎秘策なんだから‼︎」
そう言うとスタンガンのような手袋から電流を流し、鎖状のムチが電撃を纏った。
クラネはそのムチでシェリーを打とうとしたが、シェリーはそのムチを避けた。
すると、シェリーの背後にあった建物の壁が電撃で削られてしまっていた。
「上手く工夫したようだが、私は雷だけでなく他の属性も使える。それに人工的に作り出す雷と魔術で作り出す雷とは格が違うぞ」
「どうかしら?やってみなきゃわかんないわよ」
クラネはそう言うと、シェリーはクラネをじっと睨みつけた。