67,5話 金刀のジウル
デュージルは会議中、昔のことを思い出していた。まだジウルだった頃の自分のことを。
今思えば何故白龍連合に入ったのだろう。そう考えていると、かつての故郷を思い出した。
ジウルの故郷は山の奥にある小さな村だった。
ジウルはその村で生まれその村で育ち、青年期になった頃には次期村長候補の一人とまで呼ばれていた。
だがそんなある時、その小さな村に白いコートを見にまとった老人が現れる。
その老人は名をジラ・バーバリタスと名乗り、へこう言ったのだ。
「この山々の向こう側、この世界のために君が必要だ。よろしければ私の下で働いてくれないか」
そう言った老人はその後、ジウルの返答を待ち、ジウルは村の者と相談をした後、返答した。
「よろしくお願いします」
こうしてジウルは白龍連合に加わった。
この時は白龍連合が何をしようとしているのか、全くわからなかった。
ただ世界の破滅を目論見る黒虎連合を打ち倒すとしか言われていなかった。
ジウルは村のため、この世界のために黒虎連合を壊滅する作戦には必ず出撃した。
そしてどの作戦でも多大なる優秀な結果を残したことで後に“金刀のジウル”と称えられたのである。
そんなジウルにある任務が課せられた。
黒虎連合へスパイとして加入し、黒虎連合本部の情報を盗む。という作戦だ。
村のためと考えていたジウルは勿論、この任務を受けた。
ジウルは“デュージル”という偽名を名乗り、黒虎連合へと加入した。
世界の破滅を考えている奴らの集団にいる。どれほど凶悪な奴らがいるのだろうか。
そう考えていたジウルだったが、黒虎連合はジウルの考えていたほど感じが悪い人たちではなかった。むしろ前向きで仲間思いの姿をジウルは多々見ていた。
ジウルは黒虎連合と仲が良い演出をデュージルとして務めていたが、本当に仲が良くなっているように感じた。
気がつけばフリではなく、本心で黒虎連合の皆と会話をしていた。
そう、ジウルはデュージルとなっていた。
やがてジウルは白龍連合に一時的に戻ると、ジラ・バーバリタスに情報を報告した。
するとジラ・バーバリタスから返ってきた言葉は一言。
「3ヶ月で手に入れた情報は、これだけか」
ジウルは胸に何かが突き刺さるような感覚だった。手に入れた情報を最小限にしかジラ・バーバリタスには伝えなかったのだ。
報告し終え、自分で自分にジウルは何度も問いかけた。
『俺は何をやっているんだ!黒虎連合の情報を白龍連合へ伝える任務だろ!』
『いいや、黒虎連合の者たちは世界の破滅なんて考えていない気がする。むしろ白龍連合のほうが……』
『じゃあ、俺は今、どっちの連合に所属しているんだ。俺は、ジウルなのか?デュージルなのか?』
ジウルは苦しみながらもまた、黒虎連合へ情報収集のため任務で駆り出された。
黒虎連合では少数の人数で行動するパーティという組織を立ち上げていた。
ジウルもその一つのパーティに所属することになった。
「これからこのパーティで、戦って行くこととなる。俺がこのパーティのリーダー、ハガネだ」
「新兵からこのパーティに所属することとなりました!ネヴァっす!」
「新兵からこのパーティに所属することとなったトルシャだ。よろしく」
「新兵からこのパーティに所属することとなったデュージルだ。よろしく頼む」
そのパーティにはデュージルと同じ経験歴ぐらいの新兵から所属した者が多かった。
そうデュージルはまだ経験が浅い。しかし、戦いとなると、デュージルはデュージルではなくジウルとなっていた。
ジウルは黒虎連合軍にデュージルとして加入していたため、白龍連合を相手にしても何も違和感はなかった。
「黒虎連合の仲間のために戦う」
そう決めたデュージルはジウルの経験を活かして白龍兵を圧倒した。
ネヴァはそんな圧倒するデュージルを尊敬し、ハガネも感心していた。
しかし、デュージルはその戦いが終わると、本来の目的が何だったのかわからなくなってしまった。
そして、また一時的に白龍連合へ戻ることとなったジウルはまた情報を報告した。
ジウルはパーティという小組織があることしか伝えなかった。
そして白龍連合も4人1組のパーティを作った。なぜジウルはパーティのことだけを報告したのかと言うと、白龍連合のパーティに所属することで、昔の自分に戻るのではないか。そう思ったからだ。
しかし、それは白龍連合に対する疑問をさらに増しただけだった。
白龍連合の仲間は仲間ではないように感じた。ただ同じ戦場で戦い、同じ飯を食い、同じように行動するだけ。
デュージルが体験した仲間という存在はそこにはなかった。
ジウルはある日、疑問がいくつもある自分をどうにか納得させるため、白龍連合の本部へ侵入し、白龍連合の目的が記されていると言われている秘書を読んだ。
そこに書いてあったことは想像もしていなかったことだった。
黒虎連合は世界の破滅を考えている。そう教えてもらったジウルだったが、そこには【黒虎連合を壊滅させ、我々がこの世を支配する】と記されていた。
他にも【二度、成すことができなかった人類死神計画】なども書かれていた。
ジウルはその次の日、再び黒虎連合へ情報収集しに行った。
そしてそれ以来、二度とジウルは白龍連合には戻らなかった。
白龍連合にいたジウルを抹消させ、黒虎連合のデュージルとしてその日から生きることを決めた。