65話 松田隼人の過去ー後編ー
「やめろおおおおお‼︎‼︎」
身体を重力で固定され、目隠しまでもされた松田隼人は何も抵抗できぬままそう叫ぶしかなかった。
演説しているレアルへと狙撃銃を向け、ジラ・バーバリタスは軍人のような男に命令した。
「派手に撃ち殺せ」
悪魔城のテラスにいるレアルは何もそのようなことをされていることに気がついていなかった。
大勢の悪魔界の民衆の前でスピーチを続けていた。
「我々はまだ変わることができます。足りないことは何かそれを探し、克服しなければなりません。それがこれからの大きな使命となることでーー」
その瞬間、銃弾がレアルの上半身の右側を貫通した。レアルはすぐに自分が撃たれたことがわかった。
しかし、聴衆がいた悪魔城の広場にいた者たちには暗殺されたことがわからなかった。銃声が何も聞こえなかったからだ。
そんな中、朱希羅がレアルの異変に気づく。
テラスにいるレアルは一言も喋らぬまま、その場で左手で上半身右側を押さえた。出血していた。間違いない、誰かが自分を狙っている。そう確信した。
その瞬間、二発目の銃弾がレアルの左腰を掠めた。
レアルはテラスから悪魔城内に逃げ込もうと試みたが、右足を動かした瞬間、三発目の銃弾が喉を貫いた。
激痛とともに呼吸ができなくなってしまったレアルは意識が薄れていき、テラスから聴衆がいる悪魔城の広場へと飛び込むように落ちてしまった。
身体が急に動けるようになった松田隼人は急いで目隠しを外した。恐らくジラ・バーバリタスが重力を解いたのだろう。
しかし、松田隼人が目隠しを外した瞬間に目に焼き付けたものは、城のテラスから血を飛び散らせながら落ちていくレアルだった。
「あ……ぁ……」
松田隼人には一瞬、時間が止まったように見えた。レアルがゆっくり落ちていく中、中学三年生からのレアルとの思い出が脳裏に蘇った。
そして、その思い出ともに松田隼人の感情は爆発した。
「殺す‼︎‼︎」
松田隼人は再び悪魔化し、ジラ・バーバリタスへと攻撃を仕掛けた。
しかし、ジラ・バーバリタスはすぐに反応し無数の金色の粒を発生させ、その粒同士を組み合わせ金色の剣を生み出した。
松田隼人はジラ・バーバリタスへ向けパンチを放ったが、ジラ・バーバリタスをそのパンチから守るかのように、金色の粒が組み合わさったことにより発生した金色の壁によって攻撃を防がれてしまった。
その金色の粒はかつて松田隼人が見たことのあるものだった。
「それは……‼︎神の武器か!」
「レティアの時空間の力が欲しくてね。レティアを何とか拘束し、この武器を手に入れたのだよ」
「レティアにまで手を出したのか!」
松田隼人の怒りはますます上がり、ジラ・バーバリタスへと猛攻を仕掛けた。
しかし、ジラ・バーバリタスの神の武器による絶対的な壁と鋼鉄のような剣の前では歯も立たなかった。
松田隼人は重力変化によって身体を浮かせられ、悪魔城の方向へと飛ばされてしまった。
「神に勝てるとでも思ったか」
悪魔城の広場へと飛ばされてしまった松田隼人はすぐに態勢を整え、地面へと着地した。
そこには狙撃されたレアルを何人もの悪魔とマースたちが囲んでいた。
「隼人!何があった!何で傷だらけなんだ!」
「お前ら落ち着いてきけ!すぐにレアルを病院へ搬送するんだ!レアルの敵を打ちたい奴は来い!」
松田隼人はそう言うと、松田隼人のそばに江川と朱希羅が駆け寄った。
「敵の居場所を案内してくれ!」
「あぁ、ここから近い。すぐ行くぞ!」
松田隼人はそう言うと、自分と朱希羅と江川を重力で浮かせ、敵の下へと飛び去ってしまった。
悪魔城の兵士たちはレアルの姿を見ると、他の兵士たちに命令した。
「三代目悪魔王がやられた‼︎すぐに病院へ直行しろ‼︎」
「病院にいるガリス氏に連絡し、すぐに手術の準備をさせろ‼︎」
そう命令すると、一人の悪魔の兵士が病院へ連絡し、悪魔の兵士は車へと乗り込み、レアルは車へと乗せられた。
その車にマースさんたちが乗れるかどうかを尋ねた。
「俺たちはこの車の護衛を務める!」
「いいだろう。頼んだ」
悪魔の兵士は了承してくれた。
マースたちは車へと乗り込み、その車は病院へと向け猛スピードで駆けて行った。
時同じく、ジラ・バーバリタスらがいる丘の上へと到着した松田隼人たちは再びジラ・バーバリタスと対面した。
「仲間を連れて来たのか。まぁ、その選択は正しかったかもしれぬな」
「お前は、絶対許さねぇ」
松田隼人はそう言いながら、戦闘態勢を取った。軍人のような男も戦闘態勢を取ると、軍人のような男には朱希羅と江川が迎え撃った。
ジラ・バーバリタスは松田隼人へと話しかけた。
「なぜ、俺が直接手を下さずに狙撃して殺したと思う?神の武器があれば遠距離でも暗殺は可能なのだからな」
「知らねーよ。俺が考えているのはお前を倒すことだけだ!」
松田隼人はジラ・バーバリタスへと向けパンチを放ったが、ジラ・バーバリタスはそのパンチを金色の壁で防いだ。
「まぁ聞け。先ほど貫通させた銃弾には一種の毒があってな。その毒は火薬のにたような性質を含んでいて、その毒が脳まで達すると。……どうなるか、わかるか?」
「……ッ‼︎」
松田隼人は先ほどジラ・バーバリタスが言った「仲間を連れて来たのか。まぁ、その選択は正しかったかもしれぬな」の意味がわかってしまった。
松田隼人はすぐにレアルを乗せた車にそのことを伝えに行こうとしたが、その瞬間、レアルの乗せた車は大爆発を起こし、車は跡形もなく吹っ飛んでしまった。
「この野郎がッ‼︎‼︎‼︎‼︎」
松田隼人はジラ・バーバリタスへと走り出した。しかし、ジラ・バーバリタスは余裕の表情でそれに対処した。
松田隼人は猛攻を仕掛けたが、ジラ・バーバリタスの神の武器の前では手も足も出ずに、朱希羅と江川も軍人のような男に倒せれてしまった。
倒れ込む三人にジラ・バーバリタスは近づくと、松田隼人の左腕を掴み上げ、悪魔の継承を外し、それを松田隼人から奪い取った。
「お前らの命の代わりに、これは頂くとしよう。重要な研究素材だからな」
そう言うと、力尽きた松田隼人たちの前からジラ・バーバリタスと軍人のような男は消え去ってしまった。