62話 本部への訪問者
白龍連合本部ではガルドがジラ・バーバリタスへ報告をしていた。
薄暗い部屋で立派な椅子にジラ・バーバリタスは腰掛け、ガルドへ問いかけた。
「で、灯城は死んで“運命の鍵”を黒虎連合に奪われたということか?」
「作用でございます。また、䋝田セツヤ率いる白鷹パーティが白龍連合を脱退しました。彼らの処分はどうしましょうか」
「……黒虎連合のボスを倒したのであろう?上的ではないか。彼らは生かしておいてもいいだろう。ただし今後、こちらの邪魔をするようならば、直ちに排除しろ」
「了解しました」
するとジラ・バーバリタスはテーブルの上に置いてあったワインを飲み、ガルドへと命令した。
「今、黒虎連合はボスを失い混乱寸前なのであろう。地下牢に閉じ込めてある奴を出撃させろ」
「まさかバーリルを出すつもりですか」
「灯城を倒した相手だ。あいつを出してもおかしくはない。一時間後、バーリルを使って少数班で出撃させろ」
その頃、黒虎連合の本部に急遽シンが呼び出された。特に見に覚えがないが本部に呼ばれるというのは余程のことだろう。
シンは少し緊張しつつ本部へと到着した。
「所属パーティと氏名をお願いします」
本部の入り口には警備員のような者もいた。シンは素直に自分の名と豪蓮パーティということを伝えると、「どうぞ」と言われ本部への出入りを許可された。
そんな警備員のような人を見てアザエルは呟いた。
『ケケケ、なんだあれ、気持ち悪いな』
「あんな厳重にやっても無理はないさ。黒虎連合のボスが殺されたんだから」
シンはアザエルと会話をしながら、先日呼ばれた部屋へと目指した。
その部屋は和室のように設計されていて、二人の男性がそこで茶を飲んでいた。
「失礼します、豪蓮パーティ所属、神谷シンです」
「よく来たね。どうぞ座って」
なかなか爽やかな顔立ちの男性にそう言われると、シンはその場で正座した。
その部屋にはもう一人老人がいて、老人は目を細めながら茶を飲んでいた。
「ほーう、この茶はなかなか美味しいのぉ!」
『なんだこれ、茶道愛好会か?』
その様子を見ていたアザエルはふと呟く。
すると爽やかな顔立ちの男性がその老人に話しかけた。
「彼が神谷シンです」
「おぉ、そうかそうか。今日は神谷シンに会いにここまで来たんじゃったわい」
その老人はシンへと目線を向けると、こう話しかけた。
「ワシの名は“キルビス”。今日はお前さんの噂を聞いてここまで来たんじゃ」
「どこから来たんですか?」
「はて、どこだったかいのぉ」
「え」
この人、どこから来たことも覚えてないのか。帰れるのか?
そう思っていると爽やかな男性が答えた。
「キルビスさんは日本の長野から来てくださったのですよ」
「そうじゃった、そうじゃった。日本の長野県じゃ」
長野と聞いてシンは驚いた。
キルビスさんは日本から来ていたのだ。
そういえば悪魔界へと変わってしまった自分の地元はどうなっているのだろうか。気になって仕方がなかった。
そんなシンにキルビスは問いかけた。
「日本の様子を知りたいんじゃろ?安心しなさい、日本全てが悪魔界に変わってしまったわけではない」
「そうなんですか。で、なぜ日本から俺を探しにここまで来たのですか?」
「お前さんは魔人化をすることができると聞いての。まさかと思って来たのじゃが、対面して見て確信した。“最強の魔術師”のことは知っているかの」
シンは最強の魔術師のことについて問われると、かつて幼い頃にセツヤが話していた物語を思い出した。
「大体なら知ってます。あまり深くは知りませんが」
「お前さんはその“最強の魔術師”の血を引いている可能性が高い」
「お、俺が?」
「そもそも今回、日本の一部が悪魔界と化してしまったのは白龍連合のせいではない。“最強の魔術師”のたった一つの誤ち、とでも言おうかのぉ」
「一体、どういうことですか?もっと詳しく話して下さい!」
「どこから話せばいいかのぉ」
キルビスは少し黙り込むと、少し間を開けてこう言った。
「そうじゃな。松田隼人が自分の前世のことを知り、スフォルザントと戦った時代から話すとしようかの」
ついに、この世界の謎が明かされる。