60話 終戦
シンは渾身の力を込めて灯城を殴り飛ばした。殴り飛ばされた灯城は起き上がることはなく、そのまま地面に倒れこんでしまっていた。
「ハァ……ハァ……。やったか……?」
息切れを起こしている俺は膝を地面に付き、灯城の様子を伺っていた。
灯城が起き上がったとしても両腕ともにデュージルによって切断されてしまったのでこちらの勝利は絶対だった。
「そうか……。俺は負けたのか」
灯城は倒れ込んだまま空を眺めつつそう呟いていた。
そんな灯城のそばにシンは駆け寄った。
「一つ聞きたいことがある」
「なんだ?」
「白龍連合に入ったのは何故だ」
シンはそう灯城に問いかけた。するとこう答える。
「白龍連合の企みを阻止するためだ」
その返答に思わず何て返事すれば良いのかわからなかった。しかし、灯城は話を続けた。
「俺では到底、白龍連合のボスであるジラ・バーバリタスには及ばない。だから俺より強い者。ジラ・バーバリタスを倒せる可能性がある者を俺は探すために連合に加入した」
「連合に加入しないで、普通に探せば良かっただろ」
「いや、あえて黒虎連合と敵の関係になることで、ジラ・バーバリタスに対して敵対心を持つ者を探すこともできるからだ」
そう灯城は答えると、デュージルが駆け寄って来てこう問いかけた。
「んで、ジラ・バーバリタスを倒す可能性がある者を探してどうするんだ?」
「こいつを渡す」
そう言うと灯城は自らの指に装着していた指輪を取り、その指輪を俺へと差し出した。
その指輪を受け取った俺は問いかける。
「これは?」
「“運命の鍵”だ。その指輪はこの世に5つしかない神話時代の少し後に生成された伝説の遺品だ。太陽と月が合わさる時、この指輪を持つ者は“約束の地”への上陸を許可される。許可させる人数は1つの指輪につき5人までだ」
「“約束の地”。噂で聞いたことはあったが。架空のものではなかったのだな」
デュージルはそう呟くと、灯城は俺へと視線を向けて言った。
「お前は約束の地へ行き、ジラ・バーバリタスを倒すのだ!ジラ・バーバリタスは必ず約束の地に現れる!」
「この指輪を他に持つ者は誰がいるんだ?」
「俺が知っているのはお前の他に二人だけだ。ジラ・バーバリタスと黒虎連合のボス、キシラ・ホワイト」
一方、黒虎連合の本部ではセツヤとキシラの激闘が終わっていた。
セツヤが勝利し、セツヤはキシラの指に身に付けてあった“運命の鍵”を奪い取った。
そんなセツヤがいる部屋に、セツヤと同じパーティに所属する班員が現れた。
「ありゃ、黒虎連合の大将倒しちゃったんだ。やっぱ強いねぇ、セッちゃん」
「だが敵もかなりのやり手だ。僕も危なかったよ。だが、目的の者は手に入れたんだ」
「そういや、何が欲しかったのさ?こんな敵さんの本部まで来て」
“約束の地”への“入場証”だよ」
セツヤはそう答えるとその部屋にかなりの数の黒虎兵が現れた。
部屋の入り口付近に群がる黒虎兵の隊長と思われる者はセツヤへと言い放った。
「白龍連合の犬め!貴様らはここで藻屑としてやる!」
そう言われたセツヤはその場にいる全員に告げた。
「すまない、言い忘れていたね。僕ら白鷹パーティは今後、“白龍連合を脱退”する」
「……え?」
「な、マジか」
「……」
同じ白渕パーティの班員もこの宣言は驚きを隠せなかった。その宣言に対して黒虎兵の隊長はこう言い放った。
「白龍連合を脱退すれば罪を免除すると思ったか!貴様らはどんなことをしようと必ず相応の処罰を与える!」
「いや、そんな生半可な理由では脱退なんてしないさ」
セツヤはそう言うと、20人ほどの黒虎兵の内の一人に向かってぼそっと答えた。
「君と考えは似ている」
「何を言っている!さぁ、手を上げるんだ!」
黒虎兵の隊長はそう言い銃口をセツヤへと向けた。しかし、セツヤは手を上げずに自らの班員に合図した。
「ひとまず黒い箱で飛ぶぞ」
「させるか!」
隊長はセツヤに向かって銃弾を放ったが、その銃弾はセツヤには当たらず、セツヤたちは黒い箱によって悪魔界へと飛んでしまった。
「クソッ、逃がしたか!」
黒虎兵の隊長は銃口を下ろした。その部屋には激戦の傷跡と黒虎連合のボスの亡骸しか残っていなかった。