56話 サポーターとして
ついに戦場へと現れたシンは、魔人化して早々に決着を付けようとする。
しかし、その姿を見て灯城は一切焦らず、寧ろ嬉しそうな表情だった。
「さぁ、始めようか」
灯城はそう言うと、魔人化したシンに向かって走り出した。シンはカウンターを取る態勢を取り、灯城を迎え撃った。
一方、救急班のテントでは、救急班員によってリケッドとトネイル、クラネが運ばれていた。
傷だらけのリケッドを背負った医療班員はその姿を見て呟いた。
「こんな傷だらけになるまで戦うなんて。そもそもこの戦いは何の意味があるんだ」
「白龍連合に勝つためだ。白龍連合に負ければ、人間界が消えてしまうという噂を聞いた」
リケッドを背負った医療班員の問いかけに、別の医療班員が返答した。
「噂って、そんな確信が無いのにどうしてここまで!」
「わずかな希望がある限り、こいつらは戦う。俺たちはそれのサポートをするだけだ。今できる最善を尽くせ」
そう返答した医療班員はデュージルに問いかけた。
「お前らの言う作戦はどうなった?成功したのか?」
「今、その作戦を実行している。しばらくここで待機だ」
デュージルはそう返答すると、トルシャがデュージルにこう言った。
「出撃許可をお願いします」
「……お前が行って何になる。シンの足手まといになるだけだ」
「しかし!」
「俺の命令に従え」
トルシャは黙り込んでしまった。こんな乱暴な指示を出したデュージルを見たのが初めてだからだ。
だが、その時、ふとシンとの会話をトルシャは思い出した。
それはシンが豪蓮に加わったばかりの頃、トルシャはシンにこう問いかけていた。
「……アンタが言っていた助けたい友人っていうのは、生きているの?」
「……わからない。いや、生きています。あいつは人間界に突然出現した悪魔界の中に引きずり込まれました。その悪魔界に行ってーー」
「その子のことはすぐに忘れなさい」
トルシャはそう言うと、シンは少し苛立った口調で答えていた。
「は?」
「人間界に出現した悪魔界。あれは白龍連合の主体である組織、聖白天という組織が出現させたもの。そんなとこに一般人が入ったら、殺されるに決まっているわ。私たちが助けるのは生存者だけ。死んでいるかどうかもわからない人は助けようとするだけで損よ」
「そんな、まだ死んだなんてわからなーー」
「その子は死んだわ。その子のことは忘れて、ミッションに集中することね」
トルシャはあの時、当たり前のことを口にした。助けるのは生存者。生きているのかもわからない人に時間を欠けている場合ではない。
しかし、シンはこう言っていた。
「……死んでいても助けるさ、死体になっていても、生きていても、絶対、連れ戻す」
その言葉は、全てを覚悟したような言葉だった。
友に対する熱い想いとか、そういうものではない。
ただ、その言葉には責任と覚悟を感じていた。
トルシャは堪えずに、デュージルに向かって言い放った。
「今の貴方に、班長を務める器は無い!我々の班のアタッカーとはいえ、部下が戦っている!私は部下が死ぬ姿は見たくない!成長していく姿を見たい!だから私は行く!」
トルシャはデュージルの命令を無視して、そのテントから戦場へ向かおうとした。
そんなトルシャにデュージルは問いかけた。
「助けるのは生存者のみ。生きているのかもわからない者は助けない。それがポリシーのお前がそんなことを言うとはな」
するとトルシャはテントの入り口近くで立ち止まり、デュージルにこう言った。
「私を変えてくれたあの子は死なせない。生きたまま連れ戻す。それが私の、‘‘サポーター’’としての務め」
トルシャはそう言い放つと、そのテントから戦場へと向かった。