49話 白き決着
白い門が開いた状態が解けてしまったセツヤはまだその状態を維持しているキシラに対抗することは不可能だった。
そして、決着の時が来た。
キシラの振り下ろした剣がセツヤの右肩の少し上で止まっていた。
その剣を持った手はガクガク震え、キシラは動けないようだった。
そんなキシラにセツヤは話しかけた。
「お前は気づいていなかったんだ。お前の白い門も僕とほぼ同じタイミングで閉じていた」
「何故、貴様は俺の門が閉じたことに気がついた」
「瞳だ。あの状態になった時は直感と反射神経で動く戦闘スタイルで瞳から光は無くなるが、今のお前の瞳は僕を見ている。お前の剣を持っている手が震えているのも、僕の超重圧の効果だ」
「ふっ……俺の敗北か」
「白い門は使用すれば使用するほど素の自分でさえもいずれ感情を失う。お前はこの状態にすがっていたんだ。そして、素の自分を忘れている。その状態が切れたことにも気づかずにな」
「お前もいずれこの状態をまた使用するだろう。そして自分を失い、さまようのだ。本当の自分は何処かを」
するとセツヤはキシラの手から剣をゆっくり取り返した。
「僕はお前のように自分を失ったりはしない」
そしてキシラの身体にその剣を突き刺すと、倒れていくキシラを見下しながらこう言った。
「僕は僕だ」
そしてセツヤは当初の目的通り、キシラの指に身につけていた指輪を奪い取った。その指輪は‘‘運命の鍵”と言われていた物だ。
その様子をモニターで見ていたガルドはモニターの電源を消し、独り言を呟いていた。
「やはりセツヤが勝ったか。さて、もう一方はどうなっているのだろうか……」
ガルドが言うもう一方とは、黒虎連合の北側拠点のことだった。
北側拠点に灯城正凪が襲撃して来ていたのだ。
黒虎連合の北側拠点では、黒虎兵の他にリケッドが所属する央馬やトネイルが所属する赫花、そしてデュージル率いる豪蓮が灯城と戦っていた。
戦況は黒虎連合の不利だった。
灯城一人だけでも圧倒的な実力差を見せつけられていた。
そこに一人だけ援軍がやってくる。
「大丈夫か!みんな!」
神谷シンだった。シンは馬を拠点から離れた場所に待機させ、戦場にやってきたのだ。
シンは戦況をデュージルに聞くと、灯城はシンへと剣を向けて答えた。
「戦況は見ての通りだ。貴様がたった一人増えようと、この俺を倒せはしない」
「前と同じだと思ったら大間違いだ。灯城!俺は負けねぇ!」
「余程の自身があるようだな」
灯城はそう言うと、大剣を二本の剣に分裂させ、両手に一本ずつ剣を構えた。
シンはアザエルを剣の姿に変化させ、戦闘態勢を取った。
シンは自分が魔人化できないことを知っていた。先ほどの松田隼人との戦いで魔人化してしまったからだ。一度魔人化してしまうとある程度の睡眠時間を取らなければ魔人化にはなれない。
戦況はどうみてもシンのほうが不利だった。
シンは剣を構え、灯城へと走り出した。
灯城はそれに反応して、カウンターを仕掛けるが、シンは少し距離が離れた場所から雷撃を放つ。
雷撃は灯城の足下に直撃し、灯城は爆煙に包み込まれた。
(爆煙を発生させ、目潰しをしつつ攻撃を仕掛けるか。確かにこの戦闘スタイルは悪くない。だが、一歩ツメが甘かったな)
シンは爆煙に紛れて背後から灯城に斬りつけようとしたが、灯城は後ろを振り返らずにシンの攻撃を防御した。
シンは灯城から距離を取った。灯城はゆっくりこちらを振り向くと、シンはある人物を思い出した。
「そ、それは……!」
今の灯城はかつて戦ったゴルシャと同じリミッター解除と同じ状態だったのだ。
灯城もリミッター解除をすることができたのだ。
「すぐに終わらせよう」
灯城は戦いのオーラを放ちながら、そう言った。