42話 嵐の予感
「まだ生きていたか」
俺は松田隼人の様子を伺いながらそう言い、戦闘態勢を取った。
恐らくここからは慎重に戦わないと不味いだろう。もう魔人化が解けてしまっている。
魔人化が解けたことに気づいた松田隼人は死神の黒剣を構えた。
「魔人化が解けたようだな」
「解けることは想定内だ!まだまだ!」
俺はそう答え、アザエルをカッターブーメランに変化させ、大手裏剣を投げるように松田隼人へと投げた。
松田隼人は先ほどの大爆発で崩れた地面の岩を重力変化で持ち上げ、岩を盾にしてブーメランを防ぐ。
その隙に俺は地面に向け雷撃を放ち、俺を包み込むように爆煙を起こした。
その様子を見た松田隼人は爆煙に向け、邪神の弓矢で矢を放とうとした。だが、その瞬間、爆煙から俺は飛び出した。
松田隼人へ向かって一直線で突っ込んでくる俺を見て、松田隼人は先ほど盾にした岩を俺へと投げ飛ばした。
(ただ単に突っ込むだけだろうか。なら爆煙を起こした意味は……)
松田隼人がそう思っていたとき、俺へと飛んで行った岩は俺をすり抜けた。
そのとき、松田隼人は気づいた。
(あれは囮‼)
松田隼人はそう思い、後ろを振り向いたとき、そこにはパンチを放つ直前の俺が迫って来ていた。真っ直ぐ突っ込んでいた俺とは別の俺だ。
雄叫びを上げながら俺は松田隼人を殴り飛ばした。
(そうか!爆煙から最初に飛び出して来たのはアザエルが神谷シンに化けた囮!通りで岩をすり抜けるはずだ)
松田隼人はそう思いながら、地面に転がり込んだ。
俺はそんな松田隼人に言い放つ。
「前までの俺とは違うぜ‼」
一方、黒虎連合本部15F。
本部の15Fにある豪華な部屋には最強エリートパーティの黒将が出番を待ち構えていた。
「相手は灯城だぞ?俺たちが出る幕じゃ?」
「ハビル、気持ちはわかるが。これはキシラが決めたことだ。命令に従え」
「わかってるよデカムス。だけどさ、俺だって男の子だし」
そんな会話を黒将のメンバーであるハビルとデカムスはしていると、そのパーティの一人であるネルという名の女性が二人に話しかけた。
「アンタらはバカか。灯城よりも驚異なものがここに来る可能性があるんだぞ」
「ネル、それはどういことだ?」
「先ほど豪蓮から連絡であった䋝田雪哉さ。奴は豪蓮と交戦した場所の先にある遺跡から悪魔界へ飛ぶことを目的としていた。だが、果たして悪魔界に飛ぶことだけが奴の目的だったのだろうか。キャプテン・デュージルからは『奴は悪魔界への移動道具である黒い箱を持っていた』と聞いた。悪魔界に行くだけならその遺跡に行く理由は無い。キシラはその事をはっきりと認識している」
「じゃあそいつが悪魔界に行く理由は……?」
「わからない。キシラならわかるかもしらないが、だが、もし奴が黒虎連合の本部を堕とす任務を白龍連合から受けているのなら、この建物の地下にある黒い箱と繋がっている黒い箱を悪魔界で探しているだろうな」
「そんなガキ一人が来たところで!俺がちょちょいと……」
「そいつは天使王を殺した男だ。灯城と同等かそれ以上と言っても過言ではないだろう」
そんな話をしている最中にキシラがその部屋に入ってきた。
キシラはその部屋にあるソファに座り込んだとき、ハビルがキシラに問いかけた。
「敵が来たんスか!いつでも俺は動けます!」
「……いや、別に来てはいないが。まぁ、いつでも動けるならそれでいい。これは俺の推理だが、敵はここに来る」
「「「……っ‼」」」
皆、唾を飲んだ。
先ほどまでその話をしていた三人にとっては爆弾発言だろう。
デカムスは唾を飲み込んだ後キシラに問いかけた。
「何でここに来ると?」
「“遠い昔に決められた運命”と言っておこうか」
ネルは黙って、それでいて少し悲しそうな表情でキシラを見つめた。
ハビルはそんな皆に声をかける。
「大丈夫だろ!相手が天使王を倒したとしても、黒の冷王と言われたキシラさんがいるんだ!」
「ハビル」
キシラはそうハビルに言うと、ハビルは何かを感じたのか黙り込んでしまった。
そしてふと頭の中で思った。
(なんだ?この感じ。いつもキシラさんは未来を見てるかのような感じだけど。今のキシラさんは、未来を見えていないように見える……。もしかしたら、本当にヤバイんじゃ……)
その時だった。
その建物内に壮大な警報が鳴り響いた。
《敵襲!地下から出現!敵数4人!速やかに殲滅せよ!繰り返す……》
「来たか」
黒の冷王はそう言い、ソファから立ち上がった。