38話 超重圧
セツヤは俺たちに向かって、魔覇の神剣を構え走り出した。
俺は迎え撃とうとしたが、デュージルは俺に落ち着くようにと指示を出し、俺の代わりにネヴァが刀を用いて応戦した。
ネヴァの刀とセツヤの剣が交わった時、ものすごい衝撃波が辺りに飛び散った。
ネヴァはその場から離れ、離れた直後に斬撃波をセツヤに放った。
しかし、その斬撃波はセツヤには当たらずセツヤはネヴァの目の前に迫って来た。
だが、それは罠だった。
(バカめ!舐めすぎだ!この態勢でカウンターを狙えないとでも思ったか!)
ネヴァはそう思っていた。
残撃波を放ち態勢を崩したフリをして、近づいて来た瞬間を斬る騙しの技をネヴァは習得していた。
しかし、そのときネヴァの身体に異変が起きた。
身体中に鳥肌が立ち、何か恐怖心を抱いたのだ。
その瞬間的な異変をネヴァは振り切り、カウンターをセツヤに与えようとしたが、そのカウンターはセツヤには当たらなかった。
カウンターを外したネヴァにセツヤが斬りかかる。
そのときネヴァは気づいた。
まるでセツヤは自分の刀に斬られないことを知っていたかのように冷静なのだ。
ネヴァはセツヤの剣を避けようとしたが、右肩と右胸、右足に浅い切り傷を負ってしまった。
傷を負ったネヴァはすぐにセツヤから距離を取った。
「俺のカウンターを避けるなんてな。なんて奴だ」
「早く済ませよう。僕には時間が無いんだ」
セツヤはそう言うと、ネヴァへと剣を構えて走り出した。
ネヴァも刀を用いてそれに応戦した。
何度カウンターを狙ってもセツヤを斬りつけることはできない。
挙げ句の果てにネヴァは切り傷だらけで、セツヤは無傷という状態になってしまった。
「くそ、なんで攻撃が当たらない⁉」
ネヴァはそう言いながら、セツヤの背後に周り込み、背後から斬りかかった。
しかし、セツヤはその場に立ち止まり、背後を振り向くこと無くこう言った。
「僕は避けているんじゃない」
ネヴァはセツヤの背後から刀を振り下ろしたが、その刀がセツヤに触れることはなかった。
「ーー君が外しているのさ」
その状況を見たデュージルは驚いた表情をして俺に問いかけた。
「あいつは、昔からあんな能力を持っていたのか⁉」
「いえ、あいつは普通の人と何も変わらなかった」
「あいつは能力を持っている。それが奴の強さの秘密だ」
「脳力だと⁉」
俺はそう聞き返すと、デュージルは答えた。
「超重圧。ゴルシャの隙無のような能力の一種だ。相手の心底に恐怖感を感じさせ、相手は普段通りの動きができなくなってしまう。ネヴァの攻撃が当たらない理由も恐らくそれだ」
「じゃあどうすれば⁉」
俺はそう問いかけたが、デュージルは何も答えなかった。
おそらくデュージルにもそれはわからなかったのだろう。
背後からの攻撃を外したネヴァはその場で固まってしまった。
ネヴァの足は震えて動かなくなってしまったのだ。
(くっそ!震えが何故か止まらねぇ!)
セツヤはそんな足が震えて動けなくなったネヴァの方向を振り向いた。
そして、ネヴァに向かって歩き出した。
「君の攻撃は全て僕には当たらない。君では僕には勝てない」
セツヤはそう言いながらネヴァに近づいていくと、ネヴァはその場に倒れ込んでしまった。
恐怖のあまり足の力が抜けてしまったのだ。
倒れ込んだネヴァを見下しながらセツヤはこう言った。
「君は弱い」
(……くそ!くそがッ‼‼)
ネヴァは心中でそう叫びながら、セツヤの顔に向け刀で突きを放った。
しかし、刀の刃はセツヤには当たらず、紙一重でセツヤの右肩の上に突かれていた。
「言っただろう。君の攻撃は全て当たらないと」
セツヤはそう言い、倒れ込んでいるネヴァに剣を突き刺そうとしたが、セツヤの背後から銃を構えたトルシャが接近して来ていた。
「死ね」
トルシャはセツヤに向け銃を乱射したが、その弾は全てセツヤに直撃することはなかった。
全ての弾はセツヤに当たらず、辺りに飛んで行った。
セツヤはトルシャを無視して何か考え、考えがついたのか、急に俺たちにこう言った。
「僕は君たちと戦う気はない。これ以上は遠慮しておこう。……だが、助かったと思うな」
セツヤはそう言うと、ネヴァの右肩に剣を突き刺した。
「うぐぁ‼‼」
急所をワザと外したセツヤは吐血したネヴァの腹に足を踏みつけ、俺たちにこう言った。
「次は無い」
そう言うと、セツヤは黒い箱を使い、消え去ってしまった。