2話 するべきこと
それは突然のことだった。
学校から下校していた途中、俺とセツヤを境にして、俺たちが住んでいる東京の街の半分が真っ黒いドームで覆われてしまった。
俺たちはわけもわからないまま、とにかくその場から逃げ出した。
「逃げろ‼なんかヤバイぞ‼」
「お、おい!見ろ!」
セツヤは何かに気づいたらしく、俺はセツヤが指差した方向を見た。
それは真っ黒いドームがどんどん拡大していく姿だった。
つまり、このままでは俺たちは真っ黒いドームに飲み込まれてしまう。
「黒い壁が近づいてくる⁉」
「飲み込まれたら死ぬぞ‼早く逃げるんだ‼」
俺たちはとてつもない恐怖心を抱きながら、そのドームから逃げた。
だが、ドームはどんどん拡大していき、ズズズズと音を立てるかのように近づいてきた。
そのときだった。
俺の足が突然、動かなくなり、そのまま俺は地面へと倒れ込んだ。
「痛っ!こんなときに!」
「シ、シン!後ろだ!」
セツヤには見えていた、真っ黒のドームからまるでシンを捕らえるかのように、真っ黒の巨大な手が伸びていたのだ。
「……っ‼」
俺もそのドームから伸びた巨大な手に気づいたが、とてもその手から逃れられそうになかった。
だが、俺の前にセツヤが立ちはだかった。
「セツヤ……?」
「じゃあな、シン」
セツヤはその巨大な手に胴体を掴まれると、ドームから伸びてきた無数の手がセツヤの腕や足を掴んだ。
「セツヤ‼」
「ああああああああ‼‼‼」
セツヤは抵抗する素振りを見せたが、無駄だった。俺はドームの中に引き込まれるセツヤに向け、手を差し伸べることしかできなかった。
(嫌だ……)
セツヤは引きずり込まれながら、涙を流し思っていた。
(し、死にたくない!)
そして、セツヤは真っ黒いドームの中に引きずり込まれていった。
その後の記憶は覚えていない。
気がつくと、俺は地下室のような場所にいた。
薄暗く、何だか臭い。明かりといったらロウソク一本くらいしかなかった。
「ここは……」
「起きたみたいですね」
俺は女性の声が聞こえた方向に目を向けると、そこには一人の姫のような女性とSPのような格好をした男性がいた。
女性は俺に話しかけてきた。
「今は休んでいて下さい。そしてゆっくり思い出してみて……」
「そうだ、早くセツヤを助けないと!早くしないと!」
「あそこに入ってしまっても、そう簡単には死なないだろう。その子はまだ大丈夫だ」
「あそこ?真っ黒のドームのことか⁉」
俺はSPのような格好をした男性に問いかけた。
「教えてくれ!ここはどこなんだ⁉お前たちは一体何者なんだ⁉」
「俺たちはお前の味方だ。安心しろ。そして今から説明することをよく聞くんだ。まず、もう二度と、普段の生活に戻ることはないだろう」
SPのような格好をした男性はそう答えると、俺はさらに混乱に陥った。
「は?どういうことだ⁉」
「お前は、悪魔のことを知っているか?そして、最強の魔術師の神話を」
「何でも知っている訳じゃない。が、ある程度は知っている」
「そうか、なら、世界が四つに別れていることも知っているな?」
俺はセツヤが話していたことを思い出した。
「あぁ、知っている」
「人間界に突如として現れたあの黒いドーム。あれは人間界の一部が悪魔界と化したということだ」
「じゃあ、人間界にも悪魔が!」
「あぁ、いるかもしれん。だが、悪魔といっても善の悪魔もいる。悪魔にも天使にも人間にもちゃんと善悪の違いがある」
「でも、殺される確率はあるんだろ?」
「その通りだ。だが、助ける方法もある」
SPのような格好をした男性はそう答えると、俺はすぐに聞いた。
「どうやって助けるんだ⁉」
「まず、お前の力を使って、人間界に出現した悪魔界を消す。その後、人間界に溢れた悪い悪魔を、殲滅させる」
「悪魔と、戦うってのか⁉」
「安心しろ。武器はちゃんとある。とりあえず、ここから出発するぞ」
「どこに行く気だ?」
俺はそう問うと、姫のような女性が答えて来た。
「この世の安定と秩序を創り出した神殿、天魔の聖堂です」