35話 知り得た情報
この俺、神谷 真が所属するパーティ、豪蓮は白龍連合の剛迅と戦ってから、しばらくの休暇を取っていた。
そんなある日、パーティの隊長であるデュージルがとんでもない顔つきでアジトに帰還してきた。
「大変だ!みんな聞け!」
デュージルはアジトのドアを開けながら、俺たちにそう呼んだ。
ネヴァは慌てているデュージルに問いかける。
「どうしたんスか?そんなに慌てて」
「作戦命令が出たのか?」
ネヴァに続いてトルシャも問いかけたが、デュージルが返した返事は俺たちの想像を遥かに越えていた。
「天空界の長である天使王が殺された」
「天使王だと⁉今の天使王はラファエルだったろ⁉」
「あのラファエルを誰が殺したんスか⁉」
ネヴァはそう問いかけると、デュージルは答える。
「白龍連合の者だ。白いコートでフードを被っていたため、顔や正体ははっきりしていない。犯人は今もなお逃走中。犯人の居場所はまだ特定はできないが、ここに来るだろう。という推測はできている」
デュージルはそう言いながら地図を取り出し、机の上に地図を広げ、その地図に書かれている遺跡に指を差した。
「昔、この遺跡で悪魔と人間の取引があったそうだ。白龍連合は一度、悪魔界を占領しようとしたことがある。だが、その計画は三代目悪魔王の暗殺で終わってしまった。そして、今回は天空界の王を暗殺。天使王が死ねば当然、悪魔界も混乱する。そこを狙うだろう」
「つまりこのままだと、また悪魔界が襲撃させる恐れがあるということか」
「そうだ。本部から俺たち豪蓮に与えられた命令は、遺跡から200m離れた場所にある橋に待機。犯人が橋を通った瞬間、その犯人を捕獲すること。止むを得ない場合は殺せ」
「了解!」
俺たちはそう指示を受けた一時間後、その橋へと向け、馬に乗り走り出した。
「少しずつ目的に近づいてきている……。この世に変革が起こるのも遠くはないだろう……。我々があの“約束の大地”に辿り着くのもな。そうだろう?ユリシス」
薄暗い部屋の中でガルドはそう言った。
その部屋には大きな朱い結晶が浮いていて、その結晶の中にはユリシスが閉じ込められていた。
ユリシスは結晶の中からガルドに向かって何かを言い放っていたが、結晶の外からは何も聞こえない。
そんなユリシスにガルドは話し続ける。
「君は“最強の魔術師”を知っているかね?何万体もの死神から世界を救ったと言われている英雄だ。10年前に死神から世界を救った松田隼人は彼の生まれ変わりでもある。だが、もう一人、最強の魔術師と似た雰囲気を放つ者がいた。君も対面しただろう」
そう言うと、ガルドは少しにやけながら答えた。
「神谷シンだ」
ガルドは話を続ける。
「私は天魔の聖堂で君を拐った後、神谷シンがどういう人物なのか。徹底的に調べた。なかなか情報は集まらなかったよ。親も知らない。兄弟も、生まれた場所も。だが、一つ知り得たことがあってね。彼の友人である䋝田雪哉の両親は、神谷シンの両親と知り合いの仲だったらしくてね。それで、わかったんだ」
すると、ガルドは言い放った。
「神谷シンは最強の魔術師の“子孫”だってことがね」
「道理で似た雰囲気を持つと思ったよ。同じ血が流れているんだからね。神谷シンはハーフだった。母親は日本人、父親はイギリス人。イギリスの小さな街にはある噂があった。金のネックレスを下げた人に敬意を示しなさい。というものだ。金のネックレスは最強の魔術師の師であるジンが身につけていたネックレスだ。元は魔法結晶だったが力を使い果たして金となったのだろう。最強の魔術師の血を受け継ぐ子供はそのネックレスをぶら下げていたのだ。そして、神谷シンの父親はそのネックレスをぶら下げていた。今もそのネックレスは父親が持っているだろう。ある日を境にして両親は息子の前から姿を消した。警察による捜査を行ったが行方不明……」
ガルドはその部屋をウロウロしながら話続けていた。
「その情報は䋝田セツヤの両親を脅して手に入れた情報だ。抵抗してきたから、結局は殺してしまったがな。今は何としても、神谷シンが欲しい……」
ガルドはそう言うと、白と金色のコートを身につけた老人がその部屋に入ってきた。
「どうだね?あの子は上手くやっているか?」
その老人はガルドに問いかけると、ガルドは深くお辞儀をしながら答えた。
「天使王を抹殺し、現在は例の遺跡へと向かっています。ジラ・バーバリタス様」
「天使たちの嘆く声が聴こえたのだが、やはりそうだったか。あの子が行動を始めたのなら、私たちも動かないとな」
「仰る通りでございます」
ガルドはそうジラという老人に言い、お辞儀した。
ちょうどその頃、天使王を抹殺した男が通るであろう橋の近くの林に俺たちは到着した。
「標的が橋の真ん中まで通ったら、すぐに襲いかかれ。躊躇せず捕獲するんだ」
「「「了解」」」
デュージルの指示に俺たちはそう返事を返して間も無く、デュージルが橋を睨みつけこう言った。
「来たぞ……‼」