1話 それは突然に
「なぁなぁ、昨日の悪魔払いのテレビ見たか?」
「見た見た!アレすごかったよな!」
ごく普通の公立高校のある教室に、男子生徒の会話が聞こえていた。
そんな中、この俺、神谷 真は一人で机の上で爆睡していた。休み時間くらい、寝させてくれよ。そう思うばかりだ。
そんな俺の近くに、ある男が近づいて来ていた。
「おい、シン!起きろ!」
「っだよ、またお前か~。今度は何だ~?」
それは同じクラスメイトで仲が良い友達であり、家族である䋝田 雪哉だった。
両親がいない俺はこいつの家に三歳の頃から住ませてもらっている。
白いストレートの頭が特徴で、イケメンフェイスの持ち主でもある彼は、毎年バレンタインデーの日には必ず大量のチョコを貰うという能力がある。
去年のバレンタインデーもこいつが食べ切れないというので、俺も手伝いで食ったりしていたのだ。
それに比べて一方、俺はチョコなんてもらったこともないし、もちろん告白なんてされたことも無い。
まぁ、恋なんてしても直ぐに別れんだから、しないほうが良いけどね。
そう思って、今までやり過ごして来た。
そんなことで、俺はセツヤに尋ねる。
「で?なんだよ?」
「昨日インターネットで調べてたんだけどさ!すごいぜ!お前、“最強の魔術師”の話知ってるよな⁉」
「お前が俺にずっと話してた奴だろ」
「その“最強の魔術師”が10年前にいたかもしれないんだ!」
「はぁ?その魔術師は神話の登場人物だろ?何で10年前に生きてるなんて言えるんだよ?」
「魔術師の生まれ変わりなんだよ!ほら、俺たちが六歳の頃、謎の大量殺人事件があっただろ⁉犯人が結局誰だかわからなかったやつ!アレは神話に登場した死神が復活して、人間を殺していたんだ!その死神を10年前に倒したのが、最強の魔術師なんだよ!」
「そんな馬鹿げた話、あるわけないだろ。大量殺人の犯人はまだ逃走中って、ニュースでも話題になってただろ」
俺はセツヤにそう説得すると、セツヤは悲しそうな表情で問いかけた。
「なんかこうシンって、すごい現実派だよね。だから女の子にモテn……」
「う、うるせぇ!このオカルト野郎!」
普段、女子からモテモテのセツヤに言われたら言い返すこともできないので、俺はそう答えた。
学校が終わり放課後、俺とセツヤは共に下校していた。
ちなみに俺は3歳のころに両親に捨てられたことから、セツヤの家に住ませてもらっている。
下校途中、路上を歩きながら俺はセツヤに問いかけた。
「なぁ、セツヤ。お前、なんでそんなに悪魔とか幽霊とか好きなんだよ?もっとマシなものを好きになれないのか?」
「小さい頃、おじいちゃんに教えてもらったことがきっかけだよ。おじいちゃんは俺に神様の話をしてくれたんだ」
「神様?」
「何億年も昔、魔術師の呪文によって目覚めた神様は、世界を四つに分けたんだ。一つは俺たちがいる人間界。そして悪魔たちが住む悪魔界。天使たちが住む天空界。そして死神が住む死神界。この四つの世界は決して混ざり合ってはいけないんだって。なんかすごくないかい?」
「なにがすごいんだよ?」
「今、こうしている間にも、この世のどこかで、悪魔や天使が生きているって考えると、ゾクゾクしてくるんだ!」
そのときだった。
突然、路上にいた俺たちに何かを伝えるかのように、冷たい風が、空に舞い上がった。
その直後、俺たちの目の前に、突如として真っ黒い壁が出現した。
「な、なんだ⁉」
「黒の壁⁉いや、ちがう!」
それは黒い壁ではなかった。
突如として、街の半分が俺たちを境に悪魔界のようになってしまったのだ。
悪魔界のようになってしまった街は、黒のドームに覆われ、外からは内側の様子が見れなくなってしまった。
「な、何だこれ⁉」
「逃げるぞシン!」
俺とセツヤはその真っ黒のドームから全速力で逃げた。