133話 シンvsセツヤ②
神の秘宝を手にすることができる聖堂でシンとセツヤの兄弟同士の戦いは激しさを増そうとしていた。
シンは左手にアザエルが変化した剣を装備し、右手は魔神のオーラに雷の魔力を宿し、そして魔人化を発動したシンは言う。
「ここでお前を止めてみせる!セツヤ!」
セツヤは右手を前に向けて出し、引き込むように握りしめるとセツヤの右手に空間が圧縮するかのように空気が収縮していった。それによって突風が生じ、地に突き刺さっていた魔覇の神剣が突風によって抜かれセツヤの手へと突風に乗って戻って行った。
「止められるかな」
セツヤはそう言うと、剣を両手で構え俺に向かい正面から攻撃を仕掛けた。シンは攻撃をアザエルが変化した剣で防ぎ、セツヤとシンの剣術による攻防が始まった。
セツヤはこの時、改めて疑問に思ったことがあった。
『シンに超重圧が効かない』
本来であれば、シンはセツヤの超重圧によって通常通りの動きができず、攻撃をすることも防ぐこともできないはずだった。それは対象者の目に写るセツヤからの威圧によって起こる現象である。
なぜシンはセツヤの攻撃を防御し、セツヤへと攻撃が可能なのかと言うと、単純である。
セツヤを見ていないからだ。
正確に言うと人が一番威圧を感じる身体の部位はどこかと言うと、瞳である。シンが見ていたのはセツヤの足下だけだった。だが、足下だけを見ていては攻撃の防御はほぼ不可能。だが、シンにはシンにしかない能力があった。アザエルの気配察知である。アザエルはレアルらと同じように魔神に選ばれし三悪魔であったため、アザエルと同じ運命を持っていたシンはアザエルに触れることで能力を継承することが可能だった。
その能力を継承する鍵となる運命とは、‘‘不自由”。
シンは守りたい人を守ることも、生まれながらにある血筋によって否定され、その人と戦うことになってしまった。その一切の自由が通じない運命がアザエルの力を継承させたのである。
シンはセツヤの攻撃を強く弾き、セツヤを蹴り飛ばした。セツヤは宙で一回転して着地すると、全身の力を全て抜き始めた。
「シン、お前が僕のことを兄弟だと思っていようが、僕は貴様なんぞに負けない。僕こそが最強だ!」
「お前は間違っている!いい加減目を覚ませセツヤ!」
「僕はもうとっくに目を覚ましたさ」
先ほどまで憎しみの表情を見せていたセツヤは、急に無表情へと変化し、剣を構えた。
精神を司る白い門を開いたのだ。セツヤは感情を犠牲に極度な集中力を手にした。
シンは改めて剣を構えると、セツヤがシンに向かって剣を振り上げ襲いかかった。
シンはその攻撃を防ぐと、再び剣術による攻防が繰り広げられる。
剣術の攻防の一瞬の隙をついたセツヤはシンの頬を殴った。続いてすぐに蹴りを仕掛けたが、シンはセツヤの蹴り足を掴み、セツヤを投げ飛ばした。
セツヤを投げ飛ばしたシンはすぐに追い打ちをかけようと足を踏み出したが、投げ飛ばされたセツヤはシンに向かって剣を振ると、刃に帯びていた風圧がシンの真横を通り過ぎ、聖堂の壁に細く深い切り傷を刻み込んだ。
シンは迂闊にセツヤに近づけず、セツヤは剣を振るうことで、何発かの風圧による斬撃、カマイタチを放った。シンは雷を宿した右手でセツヤのカマイタチを防ぎつつ接近し、距離が近づくとシンはセツヤに向けて剣を振り下ろした。
しかし、セツヤはシンの攻撃を避け、シンの剣の上から自らの剣を重ね、シンの剣のコントロールを効かなくすると、目の前から風圧弾を放ち、シンを吹き飛ばした。
するとすぐにセツヤは空気を圧縮し、吹き飛ばしたシンをまた自らの手元へと引き戻した。シンは風に流されてしまった。しかも流された先にはセツヤが剣の刃を向けた状態で待ち構えていた。セツヤは引き込んだシンを突き刺そうと考えたのだ。
シンはアザエルをロープに変化させ、聖堂の壁に設置されていた灯りにロープの先を引っ掛け、ターザンのようにロープを使い引き込む風から脱出し、壁を蹴り上げセツヤの真上へと飛んだ。
シンはアザエルをロープから二装の銃に変化させ、セツヤに向けて銃弾の雨を放った。
しかし、極限の集中状態であるセツヤは例え気配察知を用いるシンの銃弾の雨であっても、目で見てしまえば全て避けることができた。セツヤは銃弾の雨を微細な動きで全て紙一重で避けた。
セツヤは銃弾の雨を避けつつ剣を手放し、両手で空気を圧縮した。その動きに気づいたシンは二装の銃を手放し、両手に雷の魔力を宿した。
そして両者、同じタイミングでセツヤは真上へ風圧弾を、シンは真下に雷撃を放った。
二つの魔力が衝突し、爆発を起こし両者吹き飛んでしまった。
吹き飛んだ際、両者地面に衝突したのだが、この時ダメージが大きかったのは地面との高さの関係上シンであった。地面との衝突により痛がっているシンより早く態勢を立て直したセツヤは先ほど手放した剣を空気圧縮で引き込み、シンへと急発進して斬りかかった。
襲いかかってくるセツヤに反応して、倒れ込んでいるシンは右手に雷の魔力を宿し、雷によって硬化した右手でセツヤの剣を弾いた。
弾くと同時に起き上がり、アザエルを再び剣の姿に変化させ、再び剣術による攻防が始まった。
一瞬だった。
シンと拳を魔力を剣をぶつけ合う間に、セツヤの白い門によって失ったはずの感情が、記憶が、セツヤの脳裏にチラついた。
『俺、お前を助けるから!』
まるで幼い姿のシンとセツヤが白い門の向こう側から今のセツヤを見つめているようだった。
「邪魔だ!!」
セツヤは幼い自分たちに見つめられたくないかのように白い門を閉じた。
一瞬の隙を突かれたセツヤはシンの剣術によって、持っていた剣を弾き飛ばされてしまった。
「くっ!!」
セツヤは咄嗟にシンの剣を持つ左手に向けて風圧弾を放ち、シンの手からも剣を弾き飛ばした。
両者武器を失った二人は素手で攻防を繰り広げた。
シンを殴ることによって、シンから拳を受けることによって、セツヤの脳裏には門を閉じる以前よりもっと記憶がチラついた。
二人でよく一緒に遊んだ幼少期のこと。
二人で祖父に怒られた時のこと。
二人で同じ高校に通っていたこと。
「邪魔だ!!」
セツヤは過去を振り切るかのようにシンに向けて渾身の一発を放ち、シンも同じタイミングでセツヤに向けて渾身の一発を放った。
両者お互いの攻撃を片手で防ぎ、両手を力強く握りしめ合った。
『お前はセツヤではない。レジル・ラグメニグルだ』
セツヤの脳裏にはシンとの記憶とともにガルドにかけられた言葉がチラついた。
自分は最強の魔術師の血族であり、生まれてはいけなかった第二子。そしてそれが原因でホワイト国の母親は殺された。
セツヤは再び憎しみの、怒りの顔をシンに見せた。
「シン!!!お前が憎いッッ!!!!」
「俺は倒れねェぞ!!!絶対!!」
両者、互いの拳を握りしめている状態で拳から大規模の魔力を放出した。
雷と風の魔力がシンとセツヤの周囲を激しく覆い、その魔力の強さは次第に増していった。
お互い渾身の声を上げ、全ての力を放出した。
その強大な二つの力は建物の壁や天井にダメージを与え、台座を除いた建物自体を崩壊させたのだった。




