132話 若人は舞い戻る
黒虎連合が拠点とするホワイト城中心部にゴルシャモデルの特化バーリル、灯城モデルの特化バーリル、キシラモデルの特化バーリル、アルバトーラモデルの特化バーリルが集結してしまった。
リミッター解除をしたゴルシャモデルの特化バーリルに圧倒され、その場を守備していた朱希羅は瓦礫の中に埋まってしまった。
まさに黒虎連合の絶対的危機である。
「どーしたよォ?矢崎朱希羅ァ!!てめーの力はこんなもんじゃねーだろぉ!!」
瓦礫に埋もれてしまった朱希羅にゴルシャモデルの特化バーリルは叫ぶと、朱希羅は瓦礫の山の中から姿を現した。
(作戦では特化バーリルが城の中心部分に集まったところを、周囲の城壁から砲撃で奇襲する作戦。城壁の砲撃準備が整った合図は南側城壁の上空に放たれる緑の煙弾。まだ煙弾が上がってないということは、ここは時間を稼ぐしかないようだな)
そう判断した朱希羅は対話で時間を稼ごうと試みた。
「特化バーリルってのはお前らで全員か?」
「さて、どうだろうな」
灯城モデルのバーリルは曖昧に答えた。するとアルバトーラモデルのバーリルが言った。
「時間を稼ごうとしても無駄だよ!どうせもう黒虎連合も終わりなんだからねえ!アハハハハハ!!!」
「早く事を済ませよう。まずはその男を消す」
キシラモデルのバーリルはそう言うと、朱希羅はふと気がついた。
四人とも性格や言動が異なっていること。恐らく灯城モデルのバーリルは灯城と似た、もしくは同様の性格。その他も同じようになっているのだと。
だが、それがわかったところで結局この場をどう時間稼ぎすればよいのか思い浮かばない。目の前に灯城とゴルシャとアルバトーラとキシラが殺意をこっちに向けているのと同じ状態だ。
「つーか、お前ら4対1でかかってくる気か?それはフェアじゃないな」
「戦いに卑怯も正当も無い。あるのは死だけだ」
キシラモデルのバーリルはそう言うと、アルバトーラモデルのバーリルが5体の蛇を朱希羅へ向けて放った。
(こりゃ戦って時間を稼ぐしかないか!!)
朱希羅は飛来してくる蛇たちを全て避けたが、避けた直後にゴルシャモデルのバーリルが攻撃を仕掛けていた。
「くらいな!!」
ゴルシャモデルのバーリルは渾身の一発を放ったがその攻撃は空振りしてしまった。朱希羅は時間停止を発動し、アルバトーラモデルのバーリルの背後に移動していたのだ。
アルバトーラモデルのバーリルを含め、その場にいたバーリルたちはその反応に遅れ、アルバトーラモデルのバーリルは朱希羅によって殴り飛ばされ、瓦礫の山に直撃した。
「それで姿をくらましたつもりか??」
リミッター解除をしたゴルシャモデルのバーリルは、他のバーリルよりも早く反応していた。朱希羅がアルバトーラモデルのバーリルを殴り飛ばすと同時に、もう朱希羅の目の前へと接近していたのだ。
「逃がすかよ」
ゴルシャモデルのバーリルはそう言うと朱希羅へと攻撃を仕掛けた。その瞬間、朱希羅は考えていた。
(リミッター解除……考えてから動作をするのではなく全ての動作を反射的に行うため、全身の感覚神経を研ぎ澄ました状態。つまり、こいつが歪んだ空間でもなお俺に攻撃できるのは……)
朱希羅は考えながら空間の時計で、周囲の空間を歪ませた。
(歪んだ空間の俺を見て攻撃しているのではなく、直感して攻撃しているんだろ!!)
朱希羅は歪んだ空間の中で、ゴルシャのパンチを受け止めた。
ゴルシャが目で見ずに放った攻撃は確かに直撃したが、朱希羅が拳を受け止める態勢を取っていたことは、歪んだ空間の中では気づかなかったのだ。
「俺ごとやりな」
拳を受け止められたゴルシャモデルのバーリルはそう言うと、その背後から灯城モデルのバーリルが大剣を構えて現れた。その大剣の長さは6mというゴルシャモデルのバーリルごと朱希羅を切断できる長さだ。
拳を受け止め、反撃をしようとしていた朱希羅は仕方なくゴルシャモデルのバーリルの受け止めた拳を放そうとしたが、ゴルシャモデルのバーリルは氷の魔術で互いの手を凍結させてしまっていた。
「氷の魔術!?そうか!!魔術シェリーの脳を持っているから魔術の知識が!!」
身動きが取れない朱希羅を、灯城モデルのバーリルはゴルシャモデルのバーリルごと斬りかかった。
その時、甲高い金属音が鳴り響いた。
そしてゴルシャモデルのバーリルも朱希羅も無事だったのである。
何者かが灯城モデルのバーリルの大剣を刀で受け止めていたのである。
「なんだ!?何が起きた!」
朱希羅と拳が凍結しあったせいで背後を振り向くことができないゴルシャモデルのバーリルはそう聞くと、その耳元からこう聞こえた。
「うるせえ」
身動きの取れないゴルシャモデルのバーリルは一瞬のうちに刀の斬撃によって切り刻まれてしまった。その傷具合はバーリルの身体だとしても再生不可能なくらいだった。
灯城モデルのバーリルはその何者かから距離を取ると、やっと何が起きたのか気づいた。
「貴様、どういうつもりだ!?」
朱希羅は礼を言おうとその者の顔を見た時、驚きを隠せなかった。
「すまない……。っ!!!」
なんと、そこに現れ朱希羅を助けたのは白騎士の一人であるゴルガだった。
いや、果たして今の彼はゴルガなのか、デュージルなのか、それとも本来の人格であるジウルなのか。
今の彼は一体誰なのか。
「てめーらバーリルは全員、俺が倒してやるよ」
彼はそう言った。




