131話 バーリル進撃
二千体のバーリルを解き放った白龍連合に対し、黒虎連合はバーリルの大脳にある魔術の記憶を奪取し、キルビスの力を復元させるという作戦を立てた。
しかし、ある者のDNAを取り込んだ特化バーリルが出現し、作戦成功は苦しいものとなってしまう。その特化バーリルたちには魔力は効かなかった。
南側城壁に灯城モデルのバーリルが出現し、さらに南側から中央に向けて猛攻を仕掛けたゴルシャモデルのバーリルと朱希羅が中央付近で衝突。西側・東側城壁は既に特化バーリルによって突破されてしまっていた。
この状況に対し、黒虎連合のボス、ケネスは状況をすぐに把握し対策を練っていた。
(まずは東側と西側から接近中の特化バーリルを止めるべきか。だが、そこで特化バーリルを仕留めることができなければ状況は今と変わらない。守るだけではあの白龍連合には勝てない……)
「連合長、指示を!」
ルーナがそう呼びかけるとケネスは何か思いついたかのように指示を出した。
「よし、南側城壁のバーリルを突破させろ!西側と東側はそのまま放置させ、中央であるこの城に集めるんだ!恐らく西側と東側のバーリルは南側より来るのが早い!この城の緊急用に施してある魔力式防壁シールドを展開し、南側が来るまで西側と東側を時間稼ぎさせろ!矢崎朱希羅は指示があるまでゴルシャモデルのバーリルを足止めしてくれ!全ての特化バーリルが中央に集まった時、各城壁からの大砲をこの中央に向けて発砲させる!4体の特化バーリルを完全に包囲させるんだ!」
「ダメです!リスクが高すぎる!ここが落とされれば黒虎連合は終わってしまいます!」
「今はこれしか方法は無い!キルビス氏が若返るにはバーリルの大脳が必須。バーリルの大脳を奪取するには多くの兵がいなければできない。とても容易なことでは無い。それでも困難だと言うのに魔力が効かない特化バーリルが現れたんだ。特化バーリルを排除しなければ、バーリルの大脳なんていう話ではない」
ケネスは悔しそうに、苦しそうに言った。
「これは賭けだ」
南側から城の中央に猛攻撃を仕掛けたゴルシャモデルのバーリルは、矢崎朱希羅と衝突した。
両者は互いに距離を取り、視線を向け合うと、ゴルシャモデルのバーリルは鼻で笑いながら言った。
「おやおや、いつしか俺と拳を交え敗れてしまった君か。今度はきっちりと完璧に殺してやらないとね」
朱希羅はこの時思った。バーリルの記憶はかつて白龍連合本部で戦ったあのオリジナルバーリルのものだと。ゴルシャと似た体格、ゴルシャと同じ声帯および声を持っていても、記憶はオリジナルのバーリルそのものだということを。
「前と同じだと思うなよ」
一方、南側城壁の外側は灯城モデルのバーリルの攻撃で黒虎連合の戦力が一気に減少してしまった。
「奴には魔力が効かない!もうおしまいだ!」
「諦めるな!奴の首を討ち取ってもこっちの勝ちなんだ!全員でかかれば奴一人なら倒せるはずだ!」
黒虎兵たちは武器を片手に持ち、一斉に城壁から飛び降り、灯城モデルのバーリルに襲いかかった。
「格の違いというものをわかってないようだな」
灯城モデルのバーリルは手に持っている大天使の変化剣を短剣に変化させ、片手に構えた。
壁から降りてきた数々の黒虎兵が灯城に向かって走り、短剣を構えた灯城モデルのバーリルはそれを迎え撃った。
一人目の黒虎兵を短剣で突き刺し、それと同時に二人目を蹴り飛ばし、一人目から引き抜いた短剣を宙にスピンさせ、三人目の顔部、胸部および肋骨に打撃を与え、スピンしている短剣を手に取り、三人目の首を狩った。
「怯むな!いけぇぇぇ!!!」
何人もの黒虎兵が灯城モデルのバーリルの周囲360度から攻撃を仕掛けていた。
「甘い」
灯城モデルのバーリルは地面に手を添えると、その周りから水流が湧き上がり、周囲にいる黒虎兵を水流が飲み込んだ。
「しまっーー」
黒虎兵たちは水流に流され、やがて水流は一つの水の球体に変化し、その水の球体の中に何人もの黒虎兵が閉じ込められていた。
(動けない……!息がぁ……)
(オリジナルのバーリルが魔術師シェリーから得ていた魔術か!)
灯城モデルのバーリルは大天使の変化剣を短剣から元の長刀に変化させると、剣の刃を黒虎兵を捕らえた水球に向けた。
「散れ」
灯城モデルのバーリルは剣で水球ごと黒虎兵を斬り刻み、水球の水が弾け飛ぶと、水球の中に捕まっていた黒虎兵の四肢がそれぞれ切断された状態で地に落ちた。
その様子を城壁の上から見ていた黒虎兵はただ怯えるだけだった。そんな中、何とか対策を練ろうとしていた黒虎兵に本部から作戦の連絡が入った。
作戦を聞いた黒虎兵はすぐにその場の兵士に指示を出した。
「南側兵全員この場を撤退せよ!!これは作戦だ!!この場から離れるのだ!!」
南側城壁に待機していた黒虎兵はその合図が放たれた途端、灯城モデルのバーリルから逃げるように撤退した。こうして南側城壁の守備は誰もいなくなってしまった。
「撤退したのか。罠か?それともただの逃亡か?どちらにせよ、今の黒虎連合の戦力では俺は止められない。気にせず行くか」
灯城モデルの特化バーリルは南側城壁を飛び越え、ホワイト国の中央へと向かっていった。
そんなホワイト国の中央付近では朱希羅とゴルシャモデルの特化バーリルが戦闘を繰り広げていた。
ゴルシャモデルの特化バーリルは朱希羅を圧倒できなかったことに不満を抱きながら呟いた。
「なかなかやるじゃねぇか、仕方ねぇ、コイツの特性を使うか」
「コイツの特性?」
するとゴルシャモデルの特性バーリルの雰囲気は先ほどよりも殺気立ち、そして朱希羅に言った。
「リミッター解除だ」
朱希羅は能力である時間停止を発動し、ゴルガモデルの特化バーリルの背後に瞬間移動したが、ゴルシャモデルのバーリルは下半身を前に向かせたまま上半身だけを捻じ曲げて背後を振り向き、朱希羅の攻撃を防ぎ、もう一方の拳で朱希羅を殴り飛ばそうとした。
朱希羅は空間の時計を使い、空間を歪めて攻撃を避けようと試みたが、リミッター解除したバーリルには効かなかった。
「そんなトリックが通じるものか!!」
ゴルシャモデルの特化バーリルは空間が歪もうとも、朱希羅の頬に拳を殴りつけ、朱希羅を殴り飛ばした。
殴り飛ばされた朱希羅は建物の壁に直撃し、その壁の一部が瓦礫となって崩れ、たくさんの瓦礫が朱希羅の上から降り注ぎ、朱希羅は瓦礫の山の中に埋まってしまった。
「やっと来たか、同志たちよ」
ゴルシャモデルの特化バーリルはそう言うと、その付近に東側から進撃したアルバトーラモデルのバーリル、西側から進撃したキシラモデルの特化バーリル、そして南側から進撃した灯城モデルの特化バーリルが集結した。




