125話 その日に向けて
シンはアルバトーラの上空に瞬間移動しアルバトーラの頭を地面に叩きつけた。
その衝撃は雷撃を宿したシンの右手により、土と雷、そしてアルバトーラの毒が壮大に宙に舞った。
シンは倒れているアルバトーラから距離を取り言い放った。
「もう出し惜しみはしねぇ。本気で行くぞ」
そんなシンの姿を見て松田隼人とキルビスは驚いていた。シンが使った瞬間移動、あれは松田隼人が目にしたことがある技だったからだ。
「まさか……神話時代で戦ったジンの短距離瞬間移動?いや、シンがいつそんな技を……」
松田隼人は困惑しているとアルバトーラはシンに向け一体の蛇を伸ばし襲いかかった。
「このガキャアアア!!!」
するとシンの右目の瞳が黒色に対し、左目の瞳が黄色に変化した。
すると先程まで避けることが困難だった超速の蛇のスピードをシンは軽々と避けた。
「遅い……」
攻撃を避けたシンはアルバトーラへと走り出した。アルバトーラは向かってくるシンに対して、3体の蛇を伸ばした。しかし、シンは向かってくる三体の蛇の攻撃を全て紙一重で避け、アルバトーラへと接近した。
「オノレエエエエ!!!」
アルバトーラはまだ身体から伸ばしていない残りの三体の蛇をシンへと伸ばした。こうしてアルバトーラの頭以外の全ての蛇はシンへと襲いかかった。しかし、シンは動じずにこう言った。
「後ろがガラ空きだぜ」
次の瞬間、シンはアルバトーラの背後に短距離瞬間移動をしていた。アルバトーラの頭以外の全ての蛇の視界から一瞬で姿を消し、アルバトーラの背後へと瞬間移動したのだ。
しかし、アルバトーラも背後に回り込むことを計算していた。
「甘い!!!」
アルバトーラは背後を振り向き、口を大きく開け、アルバトーラの首が伸びシンへと襲いかかった。
しかし、その攻撃をシンは避けた。
シンも予測しなかった不意打ちであったはずだが、シンは紙一重でアルバトーラの攻撃を避けていた。
「バ……バカな!!」
「俺に不意打ちは通じねーよ」
シンは
その戦闘の様子を見ていた松田隼人はシンの異常なまでの回避率を見てある人物を思い出した。
「あの攻撃を紙一重で完璧に回避する動体視力。そして一瞬にしてあらゆる場所に瞬間移動できる力。間違いない……アレはレンの師匠のジンが持っていた‘‘未来を見る目”。未来を見ることであらゆる攻撃の一手先を読み、完璧な対処を行うことができる。そして、ある場所を特定し、自らの居場所と未来とを掛け合わせることで瞬間移動したかのように見せた能力。シンがなぜあの眼を……」
「恐らく最強の魔術師に会ったのじゃろう。彼の中に眠っていた、レンの意思にな」
「そんなことが……レンはもう何千年も前の人間なのに……」
「お前がレンの生まれ変わりである繋がりがあるように、シンとセツヤにもレンの子孫である繋がりがあるのじゃよ」
キルビスがそう説明していると、シンはアルバトーラの伸びている細い首を右手で握りしめた。首を掴み喉を閉められたアルバトーラは呼吸が困難になっていた。
「アッ……グッ!!!」
「俺はセツヤを助けるために戦うことを決意した。だが、セツヤが俺を殺そうとしているのなら、世界を殺そうとしているのなら……俺はあいつを殺さなきゃいけないかもしれない。友達だから……あいつを止めなきゃいけない。それを邪魔するやつは、世界を殺そうとするやつは……俺がぶっ倒してやる」
シンは掴んでいるアルバトーラの首から高電圧の雷撃を放電した。
雷撃はアルバトーラの身体を包み込み、身体を切り裂くように駆け巡った。
「ギャアア!!!ヤメロ!!!首ガ千切レル!!!」
アルバトーラは必死にそう叫ぶと、シンは雷撃の放出を止め、アルバトーラの首から手を離した。
「一度は許してやる。もう俺たちの前に現れるな」
「ハァ……ハァ……」
アルバトーラはフラフラになり、やがてその場に崩れ落ちてしまった。
アルバトーラの身体変化も解けてしまい、蛇の頭部は消え、人間の姿に戻っている。
「……だけでも……」
シンがアルバトーラに背を向けた瞬間、アルバトーラはそう呟いた。
シンが気になりアルバトーラのほうを振り向いた瞬間、アルバトーラはシンに向かってナイフを投げ飛ばした。
「お前だけでも死ねェェェェ!!!!」
しかし、シンにそのナイフは当たらずシンはアルバトーラの背後に短距離瞬間移動していた。
「俺に不意打ちは効かねーつってんだろ」
シンはアルバトーラの頭を掴み、再び雷撃を放出した。
「ギャアア!!!」
その雷撃でアルバトーラの頭皮から髪の毛が抜け落ちていき、皮膚が段々と焦げていった。
「アタシはまだ死ぬわけにはいかないんだ!!!こんなところで!!!こんなガキにィ!!!」
「俺も死ぬわけにはいかねーんだ。お前は倒す」
シンは容赦なく雷撃を放出し続け、アルバトーラはやがて意識を失い、黒焦げとなってしまった。
松田隼人は最後に黒焦げとなったアルバトーラを死神の黒剣で切り刻み、原型がわからなくなるまで切り刻んだ。
「敵っつっても女性だ。死体は残さねぇほうがいい。それに復活なんてされても困るからな。それよりもシン、良くやった。まさか白騎士の一人アルバトーラを仕留めるとはな。お前は俺と肩を並べるくらい強くなった。だが油断はするな。お前、さっきアルバトーラが叫ばなければ‘‘未来を見る目”があろうと、背中を突かれて死んでいたんだぞ」
シンは思い返した。確かに、あの時アルバトーラが呟いていなければ今ごろ毒を食らって死んでいた。松田隼人の言う通りだった。
松田隼人はシンに話し続ける。
「誰かを守るためには強い力が必要だ。だが、力を得る代償っていうもんがある。力を手にする責任と仲間を守る責任だ。お前が死んだらお前が守りたいものも守れないんだぞ。お前がいくら最強の武器を持とうが、最強の盾を持とうが、最強の眼を持とうが、お前自身は弱いんだ。自分を大切にしろ。レンはお前を守るためにその眼をくれたんだろ」
「あぁ、だが力をもらったのは俺だけじゃねぇ。セツヤもだ」
シンはそう言った。アルバトーラを撃破したシンたちはその後、来る運命の日に備えていた。ジラ・バーバリタスを倒すため、セツヤを止めるために。
シンたちが運命の日に備えていた頃、セツヤ率いるパーティ白渕のアジトである洞窟が何者かによって襲撃されていた。
しかしそこにあった姿は、戦いに敗れボロボロとなった白騎士の一人、セフェウスの姿だった。
「ここまでの戦闘力の差があろうとは……貴様、この短時間で何故これほど強くなったのだ……!?」
「他人の力を得て強くなるというのは尺であったが、僕はこの世を統べる者。力を手に入れなくてはならない。お前ごときが僕の首を取るなど100年早い」
「……ッ!!」
セフェウスに圧倒的な強さを見せつけたセツヤは容赦なく魔覇の神剣でセフェウスの首を切り落とした。
セツヤもシンや松田隼人と同じく、来る運命の日に向け着々と準備を進めていた。彼らだけではない、黒虎連合、白龍連合、悪魔界、天使界、ホワイト国、雷神一族、風神一族、全ての戦士たちがその日に向けて待ち構えていた。
そうして、運命の日の前日となった。




