124話 懐かしき背中
シンと身体変化したアルバトーラの距離は充分にあった。シンはアルバトーラの様子を見るために離れた距離で戦闘態勢を取っていた。
(まるで二足歩行の八岐大蛇……どう攻撃してくるのか……)
シンは決して油断してはいなかった。しっかりとアルバトーラの様子を伺っていた。
だが、気がついた瞬間、シンの目の前には一体の蛇が牙を向け襲いかかっていた。
「ッ!!?」
シンはギリギリでしゃがみ込み、アルバトーラの身体から伸びた一体の蛇の攻撃を避けると、さらにもう一体の蛇がシンに牙を向け、噛み付こうとして来ていた。
「速え!」
シンは部分魔人化を発動し、右肩を魔人化させ蛇の噛みつきをガードした。
「危なかったか」
シンは安堵のため息をついたが、アルバトーラは笑みを浮かべていた。
「終わりだねぇ、神谷シン!!」
攻撃が防げられるのはアルバトーラの思い通りだった。シンは部分魔人化を解こうとしたが解けなかったのだ。それだけではなく、身動きを取ることができなかった。
シンの肩に装備された部分魔人化に噛みついた蛇が万力のような力で噛みついており、部分魔人化を解くことも、その場から動くことができなくなっていた。
「クソっ!」
身動きが取れないシンにアルバトーラの身体から伸びた6体の蛇、そしてアルバトーラの首が伸び、7体の蛇がシンに襲いかかった。
その瞬間、松田隼人がシンの脇から現れ、シンの肩に噛みついている蛇の首を死神の黒剣で切り裂き、シンを重力変化で運び、シンとともに木々の中へ身を隠した。
危機を脱したシンと松田隼人は木々の陰に隠れ、アルバトーラの様子を伺うとともに松田隼人がシンに問いかける。
「毒は食らってないな?奴は思ったより強い。あんな化け物になっちまったんだ。無理もねぇ」
「奴の身体から伸びてくる蛇のスピードは異常じゃなかった。目で追えるスピードではあるが初速が速すぎる」
「恐らく奴の身体から伸びてる蛇は実際に存在している蛇をモデルに造られている。蛇の中には時速20キロで疾走する蛇もいるらしいぞ、恐らくそれだな。シン、お前一人ではやはりまだ危険すぎる。俺が奴を引きつけるから、お前が奴を叩け」
「いや、ここは俺一人にやらせてくれ」
「……なんだと?」
「確かにあいつは強いし、俺一人じゃ倒せるかどうかわからねぇ。だけど、」
シンは話しながら精神世界でのセツヤとの会話を思い出した。
「アルバトーラを倒せないようじゃ、この先生き残っても足手まといなだけだ」
するとシンは木々の陰から表に姿を現し、アルバトーラの前に立ちはだかった。
「必ず倒してみせる」
松田隼人はそんなシンの後ろ姿を見て感じた。その後ろ姿はかつての自分にそっくりだと。
(子を見守るってのはこういう気持ちなんだな、父さん)
松田隼人はそう心の中で語り、シンの背中を声で押した。
「いってこい!」
「ああ!」
シンは右手に雷の魔力を宿した。それと同時に身体変化したアルバトーラから二体の蛇が伸び、シンに牙を向け襲いかかった。
「出し惜しみは」
二体の蛇がシンに噛みつこうと牙を向けたその瞬間、シンはその場から姿を消し、アルバトーラの上空に瞬間移動していた。
「無しだ!!」
シンは右手に雷の魔力を宿したまま、アルバトーラの上空からアルバトーラの頭を右手で掴み、地面に叩きつけた。




