116話 決意の言葉
ジラ・バーバリタスの配下である四人の精鋭白騎士によって天空界と悪魔界は白龍連合の傘下と堕ちてしまった。
天空界の王宮では椅子に腰掛けているジラ・バーバリタスの前にアルバトーラとセフェウスが報告に来ていた。
「報告します。我々白騎士は悪魔界の襲撃及び占領に成功し、四代目悪魔王ラースを葬り去りました。しかし、四代目悪魔王の護衛についていた松田隼人ら朱瑩を逃がしましたが、こちらに何も損傷はありません。もはや悪魔界も貴方の手中の中でございます。我が君」
セフェウスはそう報告すると、ジラ・バーバリタスは椅子の隣に立っているガルドに指示を出した。
「期待通りの活躍だ。悪魔界の指揮はガルドに任せる。白騎士は天空界で待機だ。松田隼人を逃がしたのなら、恐らく白騎士を狙って来るはずだ」
「了解しました。では、私が悪魔界に行き残りのシドウとゴルガをこちらに戻させます」
ガルドはそう答えると、その王宮を後にしようと出口である扉を開けた。すると、ジラ・バーバリタスは思い出したかのようにガルドに問いかける。
「聞き忘れていた。バーリルのほうはどうかね?」
「はい、ジラ・バーバリタス様の助言により細胞の超増殖に成功。頭部のみのバーリルでしたが、今や100体まで増殖させることができました。その中でも特に細胞の調和性、協調性が良い個体に他者のDNAを組み込み、灯城正凪や剛迅パーティのゴルシャといった今は亡き名のあった戦士たちをバーリル体で復活することに成功しました。バーリルは順調に来る日への準備を進めています」
「そうかご苦労だったな。よろしい」
ジラ・バーバリタスはそう答えると、‘‘運命の鍵”を手に持ち呟いた。
「運命の日、皆既日食まで後6ヶ月。もう少しだ。神となる日は遠くない」
その頃、人間界日本の長野県の山々で神谷シンと松田隼人の修行は始まっていた。
何とか夕方までに二人は山登りを四往復し、山頂で休憩を取っていた。
「ふー、山頂の景色は綺麗だな。そうは思わないか若者よ」
松田隼人は山頂に座り込んでいるシンにそう話しかけたが、シンは警戒していた。
共闘こそしたが、互いに拳を交えたこともあるからだ。シンはすぐに松田隼人に馴染めなかった。
「アンタ、俺が天魔の聖堂に来た時なんでガルドを殺さなかった?」
「天魔の聖堂……あぁ、俺とお前が初めて戦った時か。アレはお前が俺に戦いを挑んできたんだろ。俺もお前がガルドの仲間だと思っていたからな、勘違いだ」
「ユリシスは無事なのか?」
「ユリシスは今行方不明だ。白龍連合から逃げ出し、今はどこにいるかわからない。だが、約束の地へユリシスは来るだろう。運命の鍵を持ってな」
「お前がジラ・バーバリタスに何をされたかは知っている。三代目悪魔王のことも。なのにその仇である敵から、逃げてきたんだろ?」
「……あぁ、逃げた。逃げてきたんだ」
「ふざけんな!!」
シンは立ち上がり松田隼人の胸ぐらを掴み取った。
「最強の魔術師なんだろ!?敵が怖いから逃げたのか!?死ぬのが怖かったのか!?仲間の仇は取らなくて良いのか!!」
「敵は強かった。仇である敵は倒さなければならない。だが、それよりも俺は今生きている仲間を守りたいんだ。俺が戦う理由は敵討ちでも復讐でもない、仲間を守るためだ」
「お前は気にくわないよ、相変わらずな」
「俺も仲間の仇であったシドウと戦った時は復讐に囚われていた。我を忘れて仲間のことを忘れて、復讐に身を委ねていた。危うくまた仲間を失うところだった。シン、お前はなぜ白龍連合と戦っているんだ?」
「俺の戦う理由だと?」
「お前のことはキルビスから聞いている。代々存在する魔神に選ばれし三悪魔の最後の後継者アザエルと契約したことにより、自由無き悪魔と同じ運命を背負うことになったと。だが、お前の戦う理由は自由が無いからとか、使命だとかそんなもんじゃないはずだ。お前は初めて戦った時、何を思った?」
松田隼人にそう聞かれた時、シンは幼き頃のセツヤとの会話を思い出した。
『シンが困ったら俺、絶対シンを助けるからな!』
『それは俺も同じさ!』
シンは幼き頃の会話を思い出し答えた。
「友達を、セツヤを助けたかった」
「今はもう助けたい奴はいないのか?」
「いるさ、セツヤもそうだし、黒虎連合のみんなを守りたいんだ」
その時だった。
松田隼人は身につけている悪魔の継承から何かを感じ取った。
シンの決意がこもった言葉に悪魔の継承が反応したのだ。
「その気持ちを忘れるなよ。寺に戻って飯にするぞ」
松田隼人はそう言い、二人は山頂を後にした。
山頂から夕焼けを眺めながら松田隼人は思った。
自分がレンから受け継いだ悪魔の継承をシンに継承するのも、そう遠くないのだろうと。




