115話 悪魔界制圧
戦場であった悪魔城から松田隼人率いる朱瑩は人間界へ脱出した。ただ一人、悪魔王のラースを取り残して。
松田隼人たちは人間界の砂浜に緊急的に転送されていた。
「クソがぁぁぁ!!!!」
松田隼人は渾身の力で拳を地面に打ち付ける。ラースを守れなかった怒り、友の仇であるシドウに全く歯が立たなかった怒り、そして自分が弱いことに対する怒り、すべての怒りをその拳に込めた。
他の仲間たちもまた言葉に出ない思いが込み上がり、松田隼人はその場に泣き崩れてしまった。
「みんな……ごめんな……!!」
悪魔界ではシドウがラースの死体を担ぎ、アルバトーラが松田隼人たちを逃したことに対して不機嫌そうに悪魔城のテラスに立った。あのレアルが最期の演説を行ったテラスだ。
アルバトーラはそのテラスに立つと、悪魔界の空に向かって白い球体を打ち上げた。するとその球体は空で光り出し、ジラ・バーバリタスのホログラムを形成した。
巨人のような姿で現れたジラ・バーバリタスのホログラムに悪魔界の悪魔たちは注目した。そのホログラムのジラ・バーバリタスは言い放つ。
『今、この時をもって三代目悪魔王が亡くなった。人間界に潜む黒虎連合の者によって暗殺されてしまったのだ。黒虎連合は悪魔界だけではない、天使界をも襲撃しようとしている。これは悪魔だけの問題ではない。我々が手を取り合い、天使と力を合わせ、凶悪な黒虎連合を打ち倒そうではないか』
そのジラ・バーバリタスのホログラムの演説に耳を傾ける者も疑う者、半信半疑で聞く者もいたが、ジラ・バーバリタスのホログラムは次のように告げた。
『私はこの世界の新たなる指導者、五代目悪魔王ジラ・バーバリタスである』
そのジラ・バーバリタスのホログラムを悪魔界の森の中にいたセツヤたちも見ていた。
「天使界と悪魔界を手中に収め、一度は衰退した白龍連合の勢力が、もはや強大過ぎるものになっている……。人間界が白龍連合に乗っ取られれば、全ては終わりか」
セツヤはそう呟いた。そしてそのままセツヤたちは森に姿を隠すことにした。
その頃、人間界日本の長野県の山々の中に潜む寺では、神谷シンがキルビスの指導の下修行を行っていた。
神谷シンはただ手を向けていた。神谷シンが手を向けた先は森が何かによって吹き飛ばされていて、山が削れているようだった。
「完成じゃな。ついにこの技をものにしたか」
キルビスは神谷シンにそう言葉をかけると、神谷シンはその場に膝をついてしまった。
「ぐっ……」
「この技は魔神のコントロールが難しいのみならず、己の魔力を大量消費する。コントロールを失敗した二発分とコントロール成功した一発分、合計三発を連続で放ったんじゃ、立てないのも無理はない」
「つまり実戦では、三発放てば俺は立てなくなるってわけだ」
「そういうことじゃな。その技はここぞって時にしか使っちゃならん」
キルビスはそう言い、魔力が消耗し過ぎて立てない神谷シンを宙に浮かせた。
「今日の修行は終わりじゃ。じゃが、この後30分は座って黙祷じゃ。魔神のコントロールを完璧にせんとな。それに、ここからの修行はワシではなく、他の者に見てもらうからの」
すると神谷シンは寺の中に放り込まれた。キルビスは神谷シンを寺に放り込み、自分も寺に入ろうとしたとき、寺の付近に設置されてあった黒い箱がフタを開けた。
黒い箱からは一人の悪魔の兵士が現れた。
「キルビス様!大変残念なご報告があります……!」
現れた悪魔はキルビスにそう言うと、キルビスは聞き返した。
「悪魔界の兵士か、何の用じゃ?」
「四代目悪魔王ラース様が殺され、悪魔界が白龍連合に乗っ取られました……!」
キルビスはその報告を受けると、すぐにその兵士を寺の中に案内した。
「四代目悪魔王ラース様は白龍連合の者どもによって殺されてしまいました……。松田隼人殿が率いる朱瑩が悪魔王様の護衛を務めていたのですが、朱瑩も白龍連合の勢力に歯が立たず、悪魔王様は朱瑩を己を盾として守り、松田隼人殿たちを脱出させたのです。自分より下を守り自分の城で散る、悪魔王らしい最期でした……」
悪魔の兵士はそう話すと、シンは驚きを隠せなかった。白龍連合本部襲撃作戦ではあんなにも青年体バーリルを圧倒したというのに、その松田隼人が歯が立たない相手が存在することに驚きを隠せなかったのだ。
「相手は何人いたんだ?白龍連合の勢力は黒虎連合が本部を制圧して弱まってたはずだ」
「敵は二人でした。その二人は白騎士と名乗り、とてつもない強さでした」
「白騎士だと?白龍連合にはまだそんなのが残っていたのか!」
シンはそう言うと、キルビスが思いついたように話した。
「恐らく白龍連合の最後の切り札と言ったところかのう。白龍連合は既に天使界を制圧していた、そして悪魔界も手中に収めたのじゃ、敵は強大じゃ、恐らくここまで強大な敵が現れたのは最強の魔術師がいた神話時代から一度もないじゃろう。きっと悪魔界の次は人間界、つまり黒虎連合を狙うはずじゃ。黒虎連合と今の白龍連合が衝突した場合、勝つ確率は白龍連合が遥かに上じゃろうな」
「一体どうすれば……あの松田隼人が負けるなんて……」
「奴らより強くなるしか生き残る方法はないじゃろう」
キルビスはそう言うと、その寺に一人の男が現れた。
「短時間で強くなる特訓法といったら無いに等しい。だが、生まれつき戦闘センスがあるのなら別だ」
ある男はそう言いながら、キルビスたちがいる部屋へ入ってきた。
キルビスはそこに現れた男に話しかけた。
「さっき信号を送って呼んだばかりだというのに意外と早かったの。もっと落ち込んでると思ってたのじゃが」
「落ち込んでいる暇は無い。俺には時間が無いんだ」
なんと、そこに現れたのは松田隼人だった。松田隼人はシンを見てこう言い放つ。
「ここからの修行は俺がお前の面倒を見る。お前には恵まれた能力と魔力が有るが、それを活かす技術がまだ足りていない。休憩後、まず修行の第一段階だ」
「組手か……?」
「この山を頂上から麓まで降りて、また頂上まで登るぞ。日が落ちるまでに4往復だ」
松田隼人の指導の下、神谷シンの修行は再開する。




