113話 仲間の声
セツヤの持つ無敗の能力、超重圧はセフェウスの持つ結界の耳飾りによって破られた。セフェウスは超重圧が無効となってしまったセツヤに触れただけで石化する魔女の素手を向けて襲いかかる。
不意を突かれたセツヤは動けずにいた。それは超重圧を破られたからだけではない。セフェウスを前に自らの命が握られていることを悟ったからである。
「滅べ、レジル・ラグメニルム」
セフェウスはそう言い、セツヤの肩に触れようとした瞬間、セツヤとセフェウスの間に何者かが飛び込んだ。
それは黒虎兵であった。キビルが己の物にした黒虎兵を召喚し、セツヤの盾になるよう操作したのだ。
セフェウスの右手は黒虎兵の胸に触れた瞬間、黒虎兵は胸からみるみるうちに石化していった。
「な、なんだこれは!?そんな!!やめてくれ!!ああああああああ!!!」
黒虎兵を盾にしてセツヤはセフェウスから距離を取った。キビルがサポートしなされば恐らく死んでいた。セツヤはそう思っていた。
「酷い真似をしますね、キビル。この黒虎兵も可哀想に」
「セツヤさん!こいつは強ぇ!逃げて下さい!俺のことはほっておいて!」
キビルはセツヤに向けてそう叫んだ。セツヤは立ち尽くしたままこう答えた。
「いや、逃げはしないよ。僕に逆らう者はどんな者であれ必ず這いつくばらせてやる」
するとセツヤは魔覇の神剣を構えセフェウスへと走り出した。
「セツヤさん!!!」
「哀れなラグメニムル家の子だ、お前は私には勝てない!」
セフェウスはそう言いながら迎え撃った。セツヤは魔覇の神剣で斬りつけようとしたが、セフェウスは斬りつけられることを前提でセツヤの身体に触れようとしていたのだ。
そしてセツヤはそのままセフェウスの身体を斬りつけた。
「終わりだ!」
セフェウスがセツヤの身体へと触れる瞬間、セツヤの身体は一瞬にしてその場から消えた。
「なんだと!?」
するとセフェウスの背後からセツヤが斬りつけた。一瞬の判断で超高速かつ確実な移動経路を使い、セツヤはセフェウスの前から姿を消したのである。
「背後に!このハエめ!」
セフェウスは背後を振り向いたが、既に背後にはセツヤの姿は無く、またもやセフェウスの背後にセツヤは移動していた。
セフェウスが振り返るよりも速く、セツヤは移動を開始し、背後に到達したのである。
(これは!!ただ速いだけではない!!異常に私の動作の反応スピードが速くなってきている!まさか!これがーー)
そうセツヤは開けていた。セフェウスの行う全ての動作に超スピードで反応し、確実な行動に移す判断力、そして超人的な集中力は、セツヤの切り札であり、禁忌でもあった。
(ーーホワイト国の秘儀、白い門の開放か!!)
白い門、それはホワイト国の三大血族ホワイト、ラグメニムル、バーバリタスの3つのうちどれかの血を受け継ぐ者が開けることができる究極の門。
この門を開けた者は精神、感情と代償に集中力を極限まで高め、ある目的を達成するためだけに全ての集中力を注ぐ。
今のセツヤにはセフェウスを殺したい。や、死にたくない。といった感情は一切なかった。
あるものはただ一つ、標的対象を消すこと。それだけだった。
「全く、君はつくづく面白い子だ。私に集中力だけで勝てると思ったら大間違いということを教えてやろう」
セフェウスはそう言い放つと、セツヤへ向かって襲いかかった。
その頃、悪魔城ではアルバトーラの甲高い笑い声が響き渡っていた。
「アッハッハッハッハ!!いいねぇ!!もっと逃げまとえ!!もっと踊れぇ!!」
アルバトーラは服の袖やコートの中から大量の蛇を出現させ、身体から伸ばしていた。朱希羅、江川、メルはその猛攻に苦戦し、反撃に出るチャンスも無く、ただアルバトーラの攻撃を避けることに必死だった。アルバトーラの攻撃はたった一撃だけでも猛毒を受け、致命傷となってしまうからである。
そんな甲高い声が上がる中、究極悪魔化した松田隼人とシドウは激闘を繰り広げていた。
「うおおおおおおお!!!!」
究極悪魔化した松田隼人の猛攻をシドウは意識を全て防御に集中し、松田隼人の攻撃を全て防いでいた。
「感情を簡単に出す奴はいくら修行しても強くならん。感情に身を任せて攻撃すれば必ず隙が生まれる」
するとシドウは松田隼人のパンチを受け止め、松田隼人が攻撃を放ち怯んでいる隙をついて蹴りを打ち込んだ。
「ぐおっ!!」
松田隼人は蹴りを打ち込まれた部位を手で押さえ、その場に膝をついてしまった。
「感情は秘めろ、表に出すのは闘志だ。お前はそう教わらなかったのか?感情が漏れている今のお前では、俺には勝てん」
「うるせぇ!!」
松田隼人がシドウへと攻撃に出ようとした瞬間、松田隼人の目の前に朱希羅が現れた。
「朱希羅!何故お前がこっちにいる!お前の敵は……!」
「隼人!!」
なんと、朱希羅は松田隼人の頬を殴った。
「ぐっ!なっ、何すんだ!」
「お前、パーティの司令塔だろ!だったら自分や過去や敵だけじゃなくて、今の仲間の状況を見ろよ!敵は二人といえど強い!アルバトーラの攻撃を一撃でも喰らえば死ぬっていうのに、俺たちは全く攻撃できず防戦一方だ!!お前は究極悪魔化しても武器すら使ってないシドウに歯が立たない!このままじゃ俺たちは全滅だぞ!!指示を出せ隼人!!!」
松田隼人は指示を出そうと考えたが、頭の中で葛藤が起きてしまった。
目の前に、レアルや親友や友達の仇がいるのに、倒さなくてはいけないのに、自ら身を引くことに戸惑いを感じていたのだ。
「隼人!!」
だが朱希羅の声が松田隼人の脳裏に焼きつく。ここでまた、仲間を失うわけには行かない。松田隼人は歯を食いしばり、込み上げてくる悔しさを堪えて指示を出した。
「パーティ朱瑩!!これより悪魔王ラースを死守しつつ、ここを脱出する!!」
すると朱希羅は時間停止で一瞬にしてラースを松田隼人の近くに引き連れ、松田隼人のそばにメルと江川も寄ってきた。松田隼人はミニサイズの黒い箱をポケットから取り出し、箱を開けようとしたが、アルバトーラがそんな松田隼人たちに向かって走り出した。
「逃がしゃしないよ!!アタイから逃げられると思うのかい!!」
するとアルバトーラは襟から出現させた蛇の口から牙を抜き取り、その鋭い牙を松田隼人に向かって投げ付けた。
その投げたスピードはあまりにも速く、松田隼人の視界には捕らえることができなかった。重力変化しようにも牙のスケールが大きくなく、目で捕らえづらかったのだ。
「くそッ!!間に合えぇッ!!!」
黒い箱が開いたその瞬間、アルバトーラの投げ付けた牙が突き刺さり、辺りに血を撒き散らした。




