10話 スカウト
山道の途中、襲って来た悪魔を返り討ちにした俺は山のふもとに辿り着いた。
ふもとには小さな町の跡があったのだが、建物はほぼ壊れていて、誰もいる気配はなかった。
荒廃した町の近くには海があり、山があるというとても自然に恵まれていた場所だった。
「ここか?アザエル。お前の言う俺が行くべき場所ってのは」
『あぁ、この辺りにいると思うんだが……。ん!そこの建物の間にいるな』
「いる?」
アザエルには生物の存在を察知する能力もある。恐らくそれが“自由無き悪魔”の能力なのだろう。
俺はアザエルが指差した建物の間の暗い道へ行くと、そこに黒いローブを着た男がいた。
「久しいなアザエル。そいつがお前の主人か」
『別に俺はこいつを主人なんて思っちゃいないぜ?まぁ、パートナーってとこか。ケケケ』
アザエルと黒ローブの男はそのような会話をしていた。
俺はその黒ローブの声を聞いて、思わず問いかけてしまった。
「あんたは人間なのか?」
「その通りだ。とりあえず今は移動しよう。話は移動した後だ」
黒ローブの男はそう言うと、建物の小さな扉を開けた。
扉の向こうは冷たい風が吹いていて、真っ暗闇の世界だった。所々に松明が壁に設置されているのだが、あまり明るくはない。
どうやら地下に続いていた。
扉を開けてから、黒ローブの男はアザエルに聞いた。
「尾行は無いだろうな?」
『俺の能力をなめるな。伊達に魔神に選ばれし三悪魔をやっているわけではない。気配察知を発動し続けていたからな』
「なら大丈夫だな」
黒ローブの男はそう言うと、俺たちはその建物の地下へと入って行った。
その中は寒くて暗い。
階段を降り続け、ようやく俺たちはある扉の前に到着した。
「着いたぞ」
黒ローブの男はその扉を開けると、その扉の向こうはまるで居酒屋のような部屋だった。
酒の臭いが漂っている。
その部屋には赤いソファに寄りかかっている金髪の女性と、酒を入った瓶を片手で持っている赤マフラーの男性がいた。
黒ローブの男は黒ローブを脱ぎ、ハンガーにかけ、その二人に言う。
「おいお前ら、新しいメンバーだ」
「お、キャプテン!マジっすか」
酒を飲んでいた男性はそう言うと、金髪の女性が俺に話しかけてきた。
「で?その子の名前は?」
「俺も知らん」
キャプテンと呼ばれていた男性は答えると、俺はその問いに答えた。
「俺は神谷 真。この世で起きている現象を確かめるためにここへ来た。それと、友人を助けるためだ」
「友達を助けるためにここへ来たってか。しかしお前、名前からして日本人だな。日本人がこんな遠くまでよく来たな」
「アンタらは日本人じゃなさそうだな」
俺はそう言うと、酒を飲んでいた男性は答えた。
「俺の名はネヴァ。チャームポイントはこの赤マフラーさ。ちなみにここは日本なんかじゃないぜ?太古の昔、“最強の魔術師”が巨大な悪と激闘を繰り広げた。って言われている山のふもとの町さ。この町は太古の昔から存在しているらしい」
「じゃあここは、遺跡。ってわけだな?」
俺はそう問いかけると、ネヴァは答える。
「そんなもんだな。まぁ、その町の地下を俺らのアジトにしてるんだがな。ちなみに、そこの金髪女の名はトルシャ。で、お前をここへ案内したのが、キャプテンのーー」
すると、黒ローブを着ていてキャプテンと呼ばれていた男性が答えた。
「デュージルだ。気軽に名前で呼んでくれても構わない」
「ここをアジトと言っていたが、ここは何かの組織なのか?」
俺はそう問いかけると、ネヴァが答える。
「なんだお前、パーティって知らないのか?小隊人数で戦闘、殲滅、侵入、作戦を行う小さな組織だ。この世界にはパーティがいくつもある。俺たちもそのパーティの一つさ。今ではパーティ同志で連合を組み合い、二つのパーティの連合軍が出来上がった。俺たちも連合を組んでいる“黒虎連合”と、この世界の謎と関係している組織を主体とした“白龍連合”がな」
するとデュージルが説明し出した。
「そして今ではその二つの連合が戦い合っているというわけだ。俺たちを含む“黒虎連合”は、今、危機に直面している。だが、明日、黒虎連合は全勢力を持って、敵地の殲滅作戦を開始する。その作戦が成功すれば、戦況は大逆転する。手を貸してくれないか。神谷 真」
「それは、このパーティへのスカウトか?」
「そんなものだ」
「……いいだろう。この世の謎に近づけるなら、協力はする」