111話 最強の男
悪魔王の命を狙って悪魔城に襲撃を開始した白騎士のアルバトーラとシドウ。悪魔王の護衛をしていた松田隼人は、かつての友の仇であるシドウを見て言い放つ。
「てめぇは、てめぇだけはここで殺す!!」
その松田隼人の姿は味方である朱瑩パーティのメンバーも怖気付いていた。確かに今の松田隼人は悪魔化の人段階上の鬼神化状態で荒々しく見えるが、荒々しく見えるのは鬼神化の効果だけではなかった。目で見ただけでもわかる本気の殺意が松田隼人から発していたのだ。
「朱希羅、江川、メル、お前たちはそこの女の相手をしろ」
松田隼人は朱瑩パーティのメンバーにアルバトーラの相手をするよう指示し、松田隼人が左手を固く握り締めると、鬼神化の効果もあるのか松田隼人の拳に電光がバチバチと帯電していた。
「シドウは俺が殺す!」
「哀れなガキだ、松田隼人。お前は無力ゆえに三代目悪魔王を失い、戦友を失い、そして今日、四代目悪魔王を失う。かかってこい、どれほど成長したのか見てやろう」
シドウがそう言い戦闘態勢を取った瞬間、鬼神化した松田隼人はシドウの目の前に瞬間移動した。シドウは目の前に瞬間移動してきた松田隼人に対してパンチを放ったが、松田隼人はまた瞬間移動し、シドウの背後に周り込んでいた。
シドウからの視界では松田隼人を捉えることはできず、死角からの完璧な攻撃を松田隼人はシドウの背後から放った。しかし、シドウはしゃがみ込んで松田隼人の背後からの攻撃を避け、しゃがみ込んだ状態で両手で身体を支え、右足で松田隼人を蹴り上げた。
空中に蹴り上がった松田隼人を追撃するように、シドウはその態勢のまま左足と両手で身体を宙に飛ばし、松田隼人の両足を自らの両手で掴み、空中で一回転して松田隼人を頭から地面に叩きつけた。
「うぐっ!!」
「どうした、感情に流されていては松田隼人と言えど俺には勝てんぞ」
シドウは地面に叩きつけた松田隼人に問い詰めるが、松田隼人は屈せず寧ろ殺気が先ほどよりさらに濃くなっていった。
「黙れぇぇぇッ!!!」
怒りの叫びとともに豪風が松田隼人の身の周りを駆け巡り、稲妻が豪風とともに駆け巡った。松田隼人の頭には白銀に輝く角が生え、瞳は赤く、歯は牙のように鋭く尖っていた。
松田隼人の変化が完了すると身の周りを駆け巡っていた豪風は飛び散り、松田隼人の身体には稲妻が駆け巡っていた。
松田隼人は究極悪魔化したのである。
究極悪魔化した松田隼人を見てシドウは話しかける。
「その変化、先ほどよりもさらに悪魔化が進んでいるな。お前は悪魔と化すことに何も抵抗を感じぬようだから教えてやろう。悪魔とは、最強の魔術師が現世を四つに分ける時、罪を犯した者だけが四つのうちの一つ、悪魔界に転生された、それが悪魔だ。対象に罪を犯していない者は天使界へと転生され、まだ命があった者は人間界へと留まった。つまり悪魔とは罪を犯した者。その名の通り‘‘悪”だ。お前は悪の力を身につけ正義とほざいているがそれは違う。ジラ・バーバリタス様が率いる我々こそが正義だ」
「うおおおおおおお!!!」
究極悪魔化した松田隼人は閃光の如くシドウへと襲いかかった。しかし、シドウはそんな松田隼人の動きを見切り、閃光の速さで放たれた松田隼人のパンチを受け止める。するとシドウが松田隼人に反撃のパンチを放ったが、松田隼人もそのパンチを受け止め、両者硬直状態となった。
「お前のような悪を極める者が、正義とほざくな!」
するとシドウは声を上げ松田隼人の拳を掴んでいる手を捻り、松田隼人の右腕を捻り上げ態勢を崩し、不安定になった松田隼人の足下に自らの足を引っ掛けた。そして完全にバランスを失った松田隼人を蹴り飛ばした。
蹴り飛ばした松田隼人をすぐにシドウは追いかけた。追撃を仕掛けようとしたのだ。しかし、松田隼人は悪魔の邪眼の重力変化で即座に態勢を整え、反撃を仕掛け、両者の拳、蹴りが衝突し合った。
そんな二人の戦いをアルバトーラはチラ見すると同時にこう思っていた。
(噂には聞いていたが、あれが白龍兵団総隊長のシドウか!武器を使わずにあの松田隼人と対等に渡り合うとは!一体奴が武器を使えばどれ程の戦力になるんだ!?……恐らく白騎士全員が‘‘武器を使わない’’という同じ条件で戦えばーー)
シドウは衝突した拳を回転させ松田隼人の襟を掴み、背負い投げを決め、倒れた松田隼人を蹴り飛ばした。
(ーー奴が最強だ!!)
一方、黒い箱を使い悪魔城から人間界の林の中へと脱出した白渕パーティはキビルがアルバトーラの攻撃で致命傷を負ってしまったため、フタイがキビルの回復を試みていた。
「どうだフタイ、キビルは」
「毒抜きは終わった。後は傷口を塞ぐ。だが、キビルの右腕はもう切断したままのほうが良いだろう」
「仕方ない。たとえ相手がアルバトーラだったとはいえ攻撃を回避できなかったのが問題だ。お前たちにも言っておくが僕のパーティに入っている以上、あの程度の奇襲は予測していろ」
セツヤは冷めた指示をメンバーに出した。メンバーはその指示に抵抗することはなく、むしろそれが当たり前のように返事を返した。
その時、ミズナが何かを感じ取った。フタイがキビルを治療していた間ずっと目を閉じていたミズナが、急に目を見開いてこう言い放った。
「……来たぞ。奴らが結界を破った。数は二人だ」
「そろそろ来ることかと思っていたが、その通りだったな。キビルお前は立って歩くことはできるだろう戦闘には今は出るな。足手まといになる」
「了解」
キビルはそう言い、起き上がった。セツヤはミズナとフタイに指示を出す。
「お前たちは戦闘準備を取れ」
するとその林の中を白い稲妻が駆け巡った。轟音を立て、稲妻はその地に落ちた。
その稲妻とともに現れたのは白騎士であるセフェウスとゴルガだった。セフェウスはセツヤを見て同情した様子で話しかけた。
「おやおや、気高いラグメニルム家の子がこんな林の中に逃げ込むとは。王権を剥奪されてからラグメニムル家も随分衰退してしまったものだ。お前も考えを間違わなければ白騎士として生きていただろうに」
「䋝田セツヤ、いや、レジル・ラグメニムル。裏切り者のお前はここで殺してやる」
セフェウスとゴルガはセツヤにそう言い戦闘態勢を取ると、セツヤは魔覇の神剣を構えた。
「僕はお前たちのようにジラ・バーバリタスの下に就くつもりは無い。僕の邪魔をするな」




