109話 朱瑩vs白渕
目の前の江川からよそ見をしているキビルに、江川は死神の黒刀Ⅱに炎を灯し襲いかかる。
「俺の前でよそ見できる余裕は無いと思え!」
キビルはすぐに反応し、小刀を両手に持ち応戦した。刃と刃が交わる金属音を鳴らしながら、両者は攻め合った。
「へぇー、やるねぇ。じゃあ今度は俺の番だ!」
すると江川を蹴り飛ばし、フードの中から手のひらサイズの赤色の箱を二つ取り出した。
「さぁ、出ておいで」
キビルはその二つの赤い箱を地面に落とすと、その箱は壊れ、辺りに煙を撒き散らし、箱の中から二人の黒虎兵が現れた。
その黒虎兵は身体を痙攣させながら口を開いた。
「こ、ここは?あなたは……あ、朱瑩の江川さんじゃ!」
「そ、そうだ!我々は確か……は、白龍連合の者に遭遇して……」
江川は二人の黒虎兵の姿を見て問いかけた。
「この二人に何をした!」
「前に俺たち白渕は黒虎連合の本部に襲撃したことがあってね、こいつらはその時に補充しといた俺の駒だよ。つっても、またまだ駒は沢山あるんだけどねぇ」
キビルはそう答えながら、片手の手のひらに山のようにある赤い箱を見せつけた。
「それだけの数の人々を捕虜にして、自分の物に操っているのか!」
「ククク、そうだよ。誰でもこのおもちゃ箱の中に入っちまえば、みんな俺の物だ。もちろん、お前もな」
キビルはニヤつきながらそう答えると、二人の黒虎兵が剣を構え江川に向かって走り出した。
「え、江川さん!身体が勝手に!よ、避けて!」
江川は二人の黒虎兵の攻撃を避け、背後から反撃をしようと態勢を整えた時、黒虎兵の二人の声が耳に入った。
「う、うわああああああ!!」
「ひぃぃぃ!!!」
二人の江川の攻撃に怯える顔と姿を見て、江川は一瞬戸惑ってしまった。その隙を突くかのように二人の黒虎兵は江川に攻撃を仕掛けた。
江川は一人の攻撃を刀でガードして防いだ。しかし、もう一人の蹴りがガードした状態の江川に襲いかかった。
「ぐっ!」
江川は少し離れた場所まで蹴り飛ばされてしまった。そんな江川を見てキビルは高笑いしながら話しかける。
「どうだ?こいつら可哀想だろ?自分の意思とは無関係にお前を殺さなければいけない使命があるんだからな!可哀想で攻撃もできないだろ?お前もいずれこうなる、お前らは俺の生きたオモチャだ!」
「二人とも、名前は何と言う」
江川は起き上がりながらそう問いかけた。二人の黒虎兵は戸惑いながら答えた。
「た、タルマです」
「……テリーです」
すると江川は地面に落とした黒刀を拾い、答えた。
「お前たちの名は絶対に忘れない。すまないが、お前たちを必ず解放させる」
するとキビルはニヤつきながら問いかける。
「おいおいおい、お前、何も悪く無いこいつらを殺す気か?お前ら可哀想だな、自らの命が惜しいために、お前らはこの男に殺されるんだぜ?」
「うぅっ……!」
「どうしてこんなことに……!」
泣き顔を見せる黒虎兵を見て江川はキビルに言い放ち、走り出した。
「こいつらはお前のオモチャじゃねぇ!」
「迎え撃て!」
すると二人の黒虎兵は自らの意思とは無関係に江川に向かって走り出した。
「うわあああ!」
「た、助けてくれ!」
すると江川は襲いかかる二人の攻撃を避け、すれ違いざまに二人の急所を斬りつけた。そして、直後にキビルに向かって襲いかかった。しかし、キビルは江川の攻撃を小刀でガードした。
「あーあ、せっかく補充したオモチャが壊れちゃったじゃないか」
「黙れ!!」
すると江川は炎が灯ったパンチをキビルの顔に打ち込み、キビルを殴り飛ばした。キビルは建物の壁に突っ込んだ。
一方、ミズナとメルはただお互いに睨み合っていた。しかしただ睨み合っているのではない。互いに幻覚を見せ合い、術中にハメようとしていたのだ。
「初めてですよー、あなたほど幻覚を見せることが難しい人にあったのは。でも、もう僕の術中に一歩入っちゃってますねー」
するとさっきまでいなかったはずが、辺りに無数の蛇が出現し、あっという間にミズナの身体に無数の蛇が絡みついた。
「その蛇に噛まれたら毒がまわっておしまいでーす。もうこれ僕の有利ですねー」
「そうでしょうか?自分の姿をよく見てください」
ミズナはそう言うと、メルは驚いた表情を見せた。ミズナとメルの立っていた場所が入れ替わり、メルの身体に無数の蛇が絡みついていたのだ。
「あれ?おかしいなー。確かに術中にハマったはずだったのに」
「私はあなたの術中に一歩入ってしまっていたかもしれませんが、あなたは私の術中に三歩ほど踏み入っていたんですよ」
するとメルに絡みついていた蛇はメルの首に噛み付いた。
「あ……」
メルはそのまま意識を失ってしまった。気がつくとメルの身体には蛇は絡みついておらず、蛇の姿は消えてしまっていた。
倒れているメルにミズナはゆっくりと銃を向けた。
「これで終わりです」
同刻、セツヤと松田隼人の戦闘は白い門を自由に開閉できるセツヤのほうが有利に進んでいた。
セツヤは松田隼人に攻め続けていた。松田隼人がセツヤの隙をついて反撃をするが、超重圧によってセツヤに攻撃は一切当たらない。セツヤの一方的な攻撃を避け続けていた松田隼人だが、セツヤはまた瞬時に白い門を開け、松田隼人のガードが間に合わない箇所を確実に狙い松田隼人を殴り飛ばした。
「うおっ!」
セツヤは殴り飛ばした瞬間、白い門を閉じたことによりすぐに意識を取り戻した。
「悪魔界の英雄、松田隼人。あなたと言えど僕には勝てない」
「仕方ないか、悪いがもう容赦しないでいくぞ!」
松田隼人はそう言い、左手首に身につけている悪魔の継承に手を添えた。
その瞬間、異変は起きた。
金属と金属が擦れ合うような高い音が辺りにふと鳴り響いた。その音はセツヤが率いる白渕が発したものでも、松田隼人が率いる朱瑩が発したものでもなかった。
(これは、まさか!)
次の瞬間、その王室に外から窓ガラスを突き破り2つの白い雷が入り込んできた。
「伏せろっ!!」
セツヤは白渕のメンバーにそう指示を出した。その白い雷は建物の壁に切り傷を付け、柱を切り裂き、そして地面に落ちた。
二つの白い落雷からは‘‘白騎士”のアルバトーラとシドウが姿を現した。
アルバトーラは悪魔王ラースの姿を見て物騒な笑みを浮かべた。
「ヒヒヒ、見つけたよ、悪魔王!」
朱瑩と白渕の壮絶な戦いに、ジラ・バーバリタスの配下、白騎士が乱入した。




