108話 悪魔城襲撃
悪魔界では松田隼人率いる朱瑩が悪魔王が居る悪魔城へと訪れていた。四代目悪魔王のラースが襲撃された事を知った松田隼人が安否を確認するために訪れていたのだ。
「わー。これが悪魔城なんですね。僕、初めてだからビックリですよー。でも悪魔城って、こんなにボロボロになっちゃったんですねー」
朱瑩の班員であるメルという中学生はそう棒読みで口を開いた。コートに身を包んでいてフードを頭にかぶっている。肩には茶色い溝のような色をしたカエルが乗っている。メルの言う通り、悪魔城は白渕のフタイとミズナの襲撃により勢力も停滞し、危機的状況だった。
実はセツヤはこれが狙いだった。悪魔城をある程度襲撃し、悪魔王を生かしておけば必ずそれを心配した松田隼人が来るであろうことを。松田隼人の首を狙っているセツヤの作戦は思い通りに事が運んでいた。
「ラース!大丈夫か!?何があった!」
王室へと急いで入った松田隼人はラースを呼んだ。ラースは特に怪我はなかった。顔に殴られた跡が残っているだけで致命傷を負っている様子はなかった。しかし、兵士たちの数が以前より極端に減っていた。松田隼人はそのことに気づき、ラースに問いかける。
「誰にやられた?こんな酷いことを」
「二人の男と女で、白渕と名乗っていた。恐ろしい強さだった。悪魔城の兵士も、幹部で剣士だったマルテロまで殺されてしまった。それに松田隼人、ここにいるのは危険だ!奴らがここを中途半端に襲撃したのは恐らくお前をおびき出すため!これは恐らく奴らの罠だ!」
ラースがそう言い放った瞬間、その王室に突如、煙が舞い上がり視界が見えなくなってしまった。
「煙幕か!」
「朱希羅!」
松田隼人が朱希羅に指示を出すと、朱希羅は空間の時計で空間を捻じ曲げ、煙幕を振り払った。
煙幕からは白渕パーティの四人が現れた。姿を現したセツヤはメンバーに指示を出す。
「僕の思い通り松田隼人と遭遇した、お前たちは他の三人の相手をしろ」
するとセツヤは魔覇の神剣を取り出し、言い放った。
「松田隼人は僕が殺る」
一方パーティ朱瑩は松田隼人が指示を出していた。
「ラースの情報通りならあの図体がデカイ男はパワー重視のタイプだ。近接戦闘が好ましいだろう、朱希羅はあの男だ。そして、幻術をかける女、どういうトリックで幻覚を見せるかはわからないが、同じ術士のメルが相手をしろ」
するとメルは棒読みで返事をした。
「りょうかいでーす」
「そして残るはあのロン毛の男だが、どんな戦闘タイプかはわからない。あいつは江川が対応しろ。䋝田セツヤは俺が止める!攻撃パターンBだ!いくぞ!」
松田隼人はそう指示を出すと、朱希羅と江川は拳による衝撃波と刀から放つ斬撃を白渕に向かって放った。
セツヤ以外の白渕のメンバーたちは斬撃と衝撃波を回避し、セツヤには超重圧の効果で紙一重で直撃しなかった。すると、朱希羅は空間の時計を使い、江川をキビルの前に、メロをミズナの前に、自らをフタイの前に移動させた。
「一対一にさせたのは上手いな。だが、そもそもそれはこちらも願ってたことだ。寧ろ有難いよ松田隼人」
セツヤは松田隼人にそう言うと、松田隼人は三割悪魔化して答えた。
「例えまだ子供だろうが、悪魔城を襲った罪は重いぞ、セツヤ」
するとセツヤの周りにあった悪魔城の瓦礫がセツヤへと向かって急接近した。松田隼人の悪魔の邪眼の重力変化で瓦礫を操っているのだ。瓦礫はセツヤには当たらなかった。セツヤの持つラグメニルム家の血から生まれた超重圧は松田隼人でさえも無意識に緊張を抱かせ、一つも瓦礫がセツヤに触れることはなかった。寧ろセツヤは歩き出すとそこにはまるで瓦礫が道を作っているかのように、セツヤから松田隼人への一本道が生まれていた。それはまるで選ばれた者のみが歩行できる王の道のようだった。
「いくよ」
セツヤはその道を走り出した。剣を構えてセツヤは松田隼人へと走り出すと、松田隼人は瓦礫を組み合わせ自らの前に防御壁を発生させた。しかし、セツヤはその壁を突風を放って吹き飛ばし、突風とともに松田隼人に襲いかかった。
松田隼人が首を斬られそうになった瞬間、それは起こった。セツヤが急にその場に倒れ込んだのだ。それは松田隼人の重力変化によるものではなかった。セツヤを重力変化で跪かせるなら、眼でセツヤをピンポイントで捉えなければいけない。超重圧を持っているセツヤをピンポイントで捉えることは不可能。
ならなぜセツヤは倒れ込んだのか。それはただ単純なものだった。
立ち直り反射。
動物が直立姿勢を維持できるのは立ち直り反りによるものである。この反射は古くから知られ、動物が空中落下して着地する際に四肢で立つことに重要な役割を果たす。立ち直り反射は迷路性、体性、頸筋性、視覚性に分けられる。このうち、視覚性の立ち直り反射には大脳皮質後頭葉が関与しており、大脳皮質を除去した除皮質動物では認められない。高位除脳動物では視覚性以外の立ち直り反射が存在するが、低位除脳動物では全く存在しない。
つまりセツヤは気づかなかった。視覚は松田隼人を捉え、筋肉の感覚は自らが放った突風で消し飛ばされていたから、自らの足で瓦礫を踏み、その瓦礫を重力変化で動かしただけのことで転んだことを。セツヤ自身に重力変化を与えることはできなくても、セツヤの足下にあった複数の瓦礫を使ってセツヤを跪かせることはできたのだ。
松田隼人は転び込んだセツヤの首元に死神の黒剣を添えて言い放った。
「流石に慎重に首元を狙えば当たりはするだろう。どうする?お前の超重圧は破られたぜ」
「そうだな。だが、それでも僕は倒せない」
セツヤはそう言うと、一瞬、意識を失った表情を見せ松田隼人の足を拳で狙い態勢を崩させ、地面に向かって突風を放つことでセツヤは松田隼人から距離を取った。
松田隼人は態勢を立て直しこう考える。
(こいつ、俺が油断した一瞬を確実に狙いやがった……)
セツヤの様子を見ていたキビルは誇らしげにセツヤのことを見ていた。
(ククク、セツヤがただひたすらお前が現れるまで洞窟にこもっていただけだと思ったか?セツヤは洞窟の中で習得したんだよ、)
キビルがそう思っているとき、セツヤは松田隼人を鋭い眼光で睨みつけた。
(セツヤは、白い門の開閉を自由に行うことができる!)




