106話 襲撃者との衝突
ミズナは今までのことをゆっくりと思い出しながらセツヤに問いかけた。
「我々白渕は白龍連合を脱退した。で、‘‘運命の鍵”を手に入れるためにジラ・バーバリタスを暗殺すると話していたが、どうする?もう我々の手にはキシラ・ホワイトから奪った‘‘運命の鍵”がある。ジラ・バーバリタスと交戦する理由はない」
「その通りだミズナ。なら、我々が今度すべきことは来たる皆既日食へ向けて準備をすることだ。約束の地はいわば秘宝を守る宝島のような場所、ならその秘宝を狙うライバルを先に消してしまったほうが良いだろう」
「ということは石を持つ人を探して殺せばいいんだな?」
フタイは聞き返したが、セツヤは答えた。
「しかし、ジラ・バーバリタスは強い。恐らく奴は簡単には倒せないだろう。皆既日食の日が来るまでにお前たちを失うのは僕としても損害だ。ジラ・バーバリタスとは交戦しない。僕らがまず消しておく者は松田隼人と神谷シンだ。必ず神の秘宝は僕らが手に入れる!」
その頃、パーティ豪蓮のメルタ、トルシャ、ネヴァはデュージルの自宅で先日この家を襲った者が再び現れるのを待っていた。
期限は5日間。5日経っても犯人が現れなければメルタたちはこの家に宿泊することができなくなってしまう。ちなみに今日で4日目に入ろうとしていた。
時々村の門番のガーリックが豪蓮の様子を伺いに家にやってきていた。どうやら完全に豪蓮を信用している訳ではないらしい。
豪蓮が言う犯人が誰なのかは大体目星は付いていた。
豪蓮は朝から夜までその犯人が現れるのを待っていた。
ガシャーン!!
深夜だった。家のどこかの窓ガラスが強引に割られ誰かが家内に侵入してきたのだ。
メルタたちは急いで戦闘態勢を取り、家の灯りを灯した。
窓から侵入して来たのはデュージルだった。いや、今の彼はゴルガであった。
「なぜ貴様らがここにいる!?」
ゴルガは剣を構え、そこにいたメルタたちに問いかけた。ゴルガの額には冷や汗が垂れていた。
「貴方ならここに来ると思っていてね。どうやら貴方にはまだこの場所での記憶が苦しみとして残っているんだろう?だから、貴方は両親を襲撃した。だが、それでも苦痛が絶えない貴方は今度は家の家具を全て消し去るつもりなんだろう?ジウルやデュージルの思い出を消すために」
「ここは俺の家だ!この家をどうしようが俺の勝手だ!お前らが俺の事情に首を突っ込むな!」
ゴルガはメルタたちに向かって斬撃を放った。斬撃はメルタたちには命中せず、家の壁を破壊した。
「自分を忘れるな!お前はゴルガでもデュージルでもジウルでもあるんだ!自分を分割するな!」
「黙れ!俺の名はゴルガ!デュージルとジウルは俺の意識の中に存在する邪魔な残骸だ!」
ゴルガは怒鳴りつけ、さらに斬撃を放った。メルタはその斬撃を避け、物陰に隠れた。
「隠れても無駄だ!デュージルとジウルはお前たちを殺すことに戸惑いがあるだろうが、俺には無い!戸惑いがな!」
ゴルガはソファの裏に隠れたメルタに向かって斬撃を放とうとしたが、ゴルガが刀を振るう瞬間、トルシャがゴルガの背後から銃弾を放った。
「この!」
ゴルガは全ての銃弾を刀で弾くと、トルシャへ向かって斬撃を放った。
トルシャはその場にしゃがみ込み、なんとか斬撃は命中しなかったが、斬撃は家の壁を破壊し、家具がトルシャへ向かって倒れた。
ゴルガがメルタへと意識を向けていた間に、メルタはゴルガへと接近してきていた。
不意を突かれたゴルガは浅い切傷を負わされたが、すぐに反撃に行動を移し、メルタと剣を交えた。二人の持つ刃は摩擦で火花を散らしながら激しく衝突していた。
隙を見つけたゴルガはメルタの剣をメルタの手元から弾き飛ばし、手から剣を失ったメルタの右肩に刃を突き刺した。
「ぐっ!」
ゴルガはメルタの右肩から刀を引き抜くと、トドメを刺そうと刀を振り上げた。
しかし、メルタの左手から激しい水流が発生し、ゴルガを家の外へと押し出した。
「ぐはっ!」
家の外へと水流によって投げ出されたゴルガは地面に倒れ込んだ。すると家の屋根の上からネヴァがゴルガへ襲いかかった。ゴルガはネヴァの襲撃を回避し、態勢を立て直した。
ゴルガはネヴァの顔を見た時、ふとデュージルの記憶がよみがえってきた。
『キャプテン!』
憧れの眼差しをこちらに向けるネヴァの姿が頭の中にふと映し出された。
ゴルガはその記憶を振り切るようにネヴァへと襲いかかった。
「うおおおお!!」
「らああああ!!」
そして二人は剣を激しく交わし合った。
ゴルガとネヴァは接戦を繰り広げていたが、ネヴァはゴルガの太刀筋を見切り、ゴルガの剣を弾き飛ばした。
あの金刀と呼ばれたゴルガの太刀筋を見切れたのはネヴァだけだった。ネヴァはデュージルに憧れるあまり、常にデュージルのことを見ていたからだ。
デュージルとゴルガの戦闘力はもちろん、ゴルガのほうがズバ抜けて高い。だが、二人とも共通のクセがあったのだ。
そのクセは普段、デュージルの太刀筋を見ていたネヴァだからこそ見切ることができた。
ゴルガが右足を踏み出した時、ネヴァは左から斬撃が来ること見切り、ゴルガの刀を適確に弾き飛ばした。
しかし、刀を弾き飛ばされたゴルガもすぐに身体を捻り、左足でネヴァが持つ剣を弾き飛ばした。
両者、武器を手から失うとネヴァとゴルガは互いにパンチを放った。
二人の拳は双方の頬に直撃し合った。
しかしゴルガはパンチを受けつつも、姿勢を崩し左足でネヴァを蹴り飛ばした。
「ぐあッ!」
蹴り飛ばされたネヴァは地面に倒れ込み、姿勢を立て直したゴルガは自らの刀を拾い上げた。
その直後、無数の炎の塊が家の中からゴルガへ向かって飛んできた。メルタの魔術だった。ゴルガは飛んでくる炎の塊を一つ一つ刀で弾きながら、少しずつ家から離れていった。
「どうした?逃げるのか?」
家の中から姿を現したメルタはそうゴルガに問いかけた。
「この勝負はお前たちの勝ちにしてやる。だが、最後に笑うのは誰かな」
ゴルガはそう言い残し、炎の塊を自らの家へ弾き飛ばし家に着火させ、天使界へ通じる白い箱を使い姿を消した。
着火したその家はあっという間に燃え上がり、瞬く間に全焼してしまった。
メルタたちは家を襲撃した犯人のことを村の番人であるガーリックに伝え、三人はその村を後にした。




