103話 セツヤの過去episode5
セツヤとミズナの戦いは、ミズナの幻術を破ったセツヤの勝利となった。
ミズナはセツヤから放たれる超重圧の影響により、尻もちをついてしまった。
立ち上がることができないミズナに、セツヤは上から見下すように言った。
「勝負には勝った。君は我々と同行してもらおう」
「仕方ない。私は構いませんが、他の奴らがどうしたものか」
ミズナはそう言い、周りに目線を向けた。
そこには暗殺部隊の兵士たちがセツヤを囲んでいた。
「おいおい、いくら本部の奴だからって、勝手なことしちゃ困るんだよ」
「そいつは暗殺部隊の大事な戦力の握ってるんだ。そう簡単に渡しゃしねーよ」
暗殺部隊の猛者たちがセツヤとキビル、そしてミズナを囲い込み、襲いかかろうとしたそのとき、セツヤはその猛者たちへと言い放った。
「道を開けろ」
その言葉とともにセツヤから重圧が放たれ、暗殺部隊の兵士たちの足は震えだし、やがて何人もの兵士たちはドタドタと尻もちをついていき、三人の前に道が開いた。
「さて行こうか、ミズナ・アレビレス」
セツヤはキビルとミズナを引き連れてその場を去った。
ミズナが班に参加したことにより、セツヤが率いる班は3名になり、小隊として活動できる最低人数に達した。
そんなセツヤ率いる班に白龍本部のガルドから任務が下された。
セツヤは自らの個室にキビルとミズナを呼びかけ、その任務を開始することを伝えた。
「我々は今から二日間に渡る任務を開始する。内容は物品の運送だ」
「物品の運送……?」
キビルはセツヤの思わぬ発言に力が抜けてしまっていた。するとミズナが問いかける。
「物品とは?」
「どんな物かは僕も知らないが、‘‘運命の鍵”というらしい。ジラ・バーバリタスから直々の任務だ」
「‘‘運命の鍵’’。それをどこから?」
「トロール族の巣だ」
「ト、トロール族の巣⁉︎トロールって、あのトロール⁉︎」
キビルはトロールに敏感に反応した。どうやらキビルは兵士として務めて居たとき、任務中、一体のトロールが現れ、何人かの兵士が命を絶ったらしいのだ。
「トロールの巣に行くのか⁉︎」
「その通りだ。どうやら例の物はトロール族が持っているらしい。安心しろ、トロール族と白龍本部はこの事についてもう交渉済みだ」
セツヤたちは準備を済ませ、トロールの巣へと旅立った。
トロールの巣の付近は岩山に囲まれており、何本かの木々がなぎ倒されていた。おそらくトロールがなぎ倒したのだろう。
巣である洞窟の入り口の前に三人は立つと、セツヤは洞窟の内部へ向かって声を上げた。
「白龍連合の者だ。例の交渉をしに来た。誰かそこにいるのか」
「……白龍連合?あぁ、そうか、いいだろう。入ってくるがいい」
洞窟の奥から野太い声が響く。セツヤたちはそんな洞窟の奥へと足を踏み入れた。
洞窟の内部はかなり天井が高く、足音だけでもうるさいほど響き渡っていた。
「そこで止まれ」
野太い声がセツヤたちの足を止めた。暗闇の中、セツヤたちの前に現れたのは身長3mほどのトロールだった。
「早く事を済ませたいのだが」
セツヤがそう言うと、そのトロールはセツヤを睨みつけ答えた。
「せっかちなチビだ。この洞窟の構造は複雑、俺がボスの下へ案内してやる」
そのトロールは松明を手に持ち、セツヤたちの前を歩き出した。セツヤたちもそのトロールへついていった。
「キビル、離れてくれないか」
「いや、だって怖いっすよ!トロールの巣ですよ!」
「歩きにくいし邪魔だ」
セツヤの陰にすっかりキビルは隠れ、そんなキビルを呆れた顔でミズナは見つめていた。
やがて明るい場所に出た。どうやら洞窟を抜けたらしい。するとそこは岩壁に囲まれたトロールの巣だった。壁の高さは恐らく20mはあるだろう。すると、壁に設置されている扉が開き、扉の中から身長18mの巨人のようなトロールが現れた。
「大トロール様、白龍の人間を連れて来ました」
3mのトロールはそう言うと、18mの大トロールに足で蹴飛ばされてしまっていた。
「ご苦労、邪魔だ、どけ」
「うぐっ」
3mのトロールはフラフラとまた洞窟へ戻っていった。
「交渉を実行しに来た。お前たちトロールが持っている例の物を渡せ、そうすればお前たちが要求していた天空界の天使王の暗殺を実行しよう」
「白龍本部の人間と聞いてどんな奴が来るかと思ったら、こんなガキが天使王を倒すだと?我々も倒せなかった天使王をお前ごときが倒せると思っているのか。まぁいいだろう、この石、‘‘運命の鍵”は俺たちトロールを求めていないようだからな」
「石がお前たちを求めていないだと?」
「そうだ、我々トロールは自然と共鳴することができる。どんな物質でもちゃんと感じることができるのさ。その石は俺たちを求めていない。恐らくその石に求められる者はごくわずかだろう。それはまさに、運命に選ばれた者とでも言うべきだな」
「この石はもうジラ・バーバリタスの手に渡る運命だ。もしかしたらジラ・バーバリタスがその運命の者かもしれないな」
「いや、‘‘運命の鍵”は現世に5つ存在する。つまり少なからず5人はその石に選ばれるということだ。お前、名はなんという」
「レジル・ラグメニグルだ」
「そうかレジル、お前からも感じるぞ。運命をな」
トロールはそう言い切るとその石をセツヤに渡そうと手を伸ばした。すると何者かがセツヤの背後から襲いかかった。
「その石は渡さん!」
セツヤの背後からタンクトップを着た男がセツヤに襲いかかった。するとキビルがセツヤとその男の間に立ち、男のパンチを受け止めた。
「なにこいつ!トロールじゃない、人間だ!」
キビルの言うとおり、セツヤに襲いかかったのはトロールではなく、ガタイの良い男性だった。
「その石は渡さんぞ、白龍の者!」
「もう交渉は成立してんだよ!トロールの仲間かどうかは知らないけど、俺が相手する!」
キビルは小型ナイフを二本構え戦闘態勢を取った。そんなキビルに男は襲いかかる。
キビルは男のパンチを避け、ナイフで斬りつけようとしたが、男は態勢を崩しつつも蹴りをキビルに放ち、キビルを蹴り飛ばした。
蹴りをくらったキビルは態勢を立て直し呟く。
「人間技じゃないね。おかげで戦いづらい!」
すると苦戦しているキビルの前にミズナが立ちはだかった。
男はミズナが女だろうと遠慮せず、ミズナへと殴りかかったが、男の足下の地面から無数の手が生え、男を取り押さえた。
その男は地面から生えた手に取り押さえられている幻覚を見ていたのだ。
男を止めたミズナはセツヤへ言った。
「どうやら人間ですね。悪魔武器も天使武器も持っていない」
「なぜトロールの巣に一般人が?」
セツヤの問いに大トロールは答えた。
「その男は一般人ではない。フタイ・ベルオス、人間だがトロールの巣で暮らしているガキだ」
「なぜトロールの巣に?」
「そいつの母親が赤ん坊のころのフタイを育児放棄し、この巣に置いていったのさ。我々が持っている‘‘運命の鍵”は元々そいつの母親が赤ん坊のそいつと一緒にここに置いていった物で、フタイはその石を唯一の家族と思っていたらしい」
「その母親は今、どこにいるんだ」
「トロールの巣にノコノコとやってきた人間が生きて帰れると思うか?喰ってやったよ、肉は全然なかったがな」
大トロールの発言を聞いてキビルは若干冷や汗をかいた。フタイは取り押さえられている幻覚を見つつも、母の形見である石を持つセツヤを睨みつけていた。
セツヤは睨みつけてくるフタイを見て何を思ったのか、こうフタイに言った。
「二時間考える時間を与える、僕のとこへ来る気はないか?」
そう、セツヤはフタイへ言った。




