9話 その力
自由無き悪魔、アザエルと契約した俺は、天魔の聖堂を後にし、アザエルに指示されたある場所を目指して歩き出した。
今は山を下山している。
その途中、アザエルは俺に話しかける。
「言っておくが、俺の魂はお前が身につけている首飾りの結晶、堕天の魔石に封印されているから、その結晶が壊れたら、俺も死ぬからな」
「は?そんなリスクがあったのかよ!」
「当たり前だ。つまり、その結晶が俺の唯一の弱点。今、俺は結晶から飛び出しているように見えるだろうが、飛び出して見えている俺は幻だ。本体はこの結晶の中なのさ。それにその結晶に封印されているおかげで、俺はこの結晶の半径10mまでしか、自由に行動することはできない。行動すると言っても幻の姿だがな」
「それなりにアザエルも縛りがあるってことか」
「もちろん、俺は戦闘もしない。封印されているし、出れたとしても幻だからな。幻の俺と物理的接触しても、俺の身体をすり抜けるだけさ」
「堕天の魔石……。太古の昔からあった3つの天魔武器の一つらしいが、戦闘も何もできないのか……」
「何もできないってわけじゃない。ちゃんとそれなりに……」
アザエルはいきなり黙り込んだ。
俺は周りを見渡したが、周りは山道とガレキがあるだけで何もない。
俺はアザエルに問いかけた。
「どうした?」
「……じゃあ、お前の実力を見せてもらおうか」
アザエルはそう言い、アザエルの幻は結晶の中に入り込んでしまった。
俺は何がなんだかわからなかったが、あることに気づいた。
足音が聞こえるのだ。
それは重く鳴り響き、どんどん大きくなって行った。
山と言ってもここは悪魔界。巨体の悪魔が現れたっておかしくはない。
「なるほど、そういうことかい」
俺はそう言い、剣を構えた。
すると予想通り、大男のような悪魔が山のふもとの方向から走って来ていた。
すると、堕天の魔石から俺の心に伝わるように声が聞こえた。
『そいつには善の魂を感じ取れねぇ。殺しを趣味にする悪い悪魔だ!』
「お前、悪魔を善と悪で見分けることができるのか!」
俺はそう言うと、走って来た大男の悪魔は俺を見てはヨダレをダラダラ垂らし、大声で言い放った。
「貴様、人間だな?今夜のディナーはお前の生肉にでもしようか!」
「悪いな、それはこっちのセリフだ」
俺はそう言い返し、戦闘態勢になった。
「なめるな!」
悪魔はそう言い、俺に迫ってきたが、俺は悪魔の背後にヒラリと移動し、背中を剣で斬りつけた。
そして悪魔の頭部を剣で突き刺そうとしたとき、悪魔はその場から空中にジャンプし、俺の真上から炎を吐いた。
俺は即座に左手を真上に上げ、悪魔が吐いた炎を左手から放った雷撃で粉砕した。
その際に俺が放った雷撃も粉砕されていた。
「悪魔でもない貴様が魔術を使うとはな!魔法結晶を持っていたか!」
「悪いな、魔法結晶なんて持ってないんだ」
俺はそう言い、空中に浮いている悪魔に向かってジャンプし、正面から右手に持っている剣で斬りつけようとした。
「正面から来るとは!愚かな!」
悪魔はそう言い、ジャンプしてきた俺を叩き落とそうとしたが、俺はニヤリと笑い言い放った。
「かかったな」
俺は左手に雷の魔力をチャージしていたのだ。俺は悪魔のすぐ近くで先ほど放った雷撃とは少し弱めの雷撃を放った。
雷撃は悪魔の右足をかすった。
「魔術を外したな。お前の仕掛けはこれだけだったか!叩き落としてやる!死ねぇ!」
「甘いな」
俺はそう言い、悪魔は俺に拳を振ろうとした瞬間、悪魔は何一つ身動きが取れなくなっていた。
「バ、バカな!動け……な……‼」
俺が斬りつける瞬間、アザエルは心の中で思っていた。
(なるほど、雷属性の魔術の特徴は“感電”。いくら弱い雷撃をかすっただけといえど、あの悪魔は直接雷撃に触れたことに変わりはない。感電すれば身動きは困難になる。シン……なかなかやるな)
アザエルがそう思った瞬間、俺は悪魔の腹を斬りつけた。
ように見えたが悪魔には傷一つなく、俺が持っていた剣の刃が折れてしまっていた。
「は?」
(いや、まだまだだったか)
アザエルは密かに笑いながらそう思っていた。俺は剣が折れたことに動揺していると、アザエルが俺に話しかけて来た。
『人間が造った武器で悪魔を殺せると思ったのか?お前、そりゃあ悪魔をなめすぎだ』
「いや、でもまさか折れるとは思わないだろ!武器が無くなっちまったぞ!」
『へっ、仕方ねぇな』
アザエルはそう言うと、結晶の中から幻の姿を現した。
「さっき言い忘れてたがな、俺は戦闘において何も役に立たないなんてことはない。ちゃんとそれなりに能力がある」
「能力だと?」
「この結晶に封印された時、修得した能力だ。俺は武器になる」
「武器になる?どういうことだ」
「こういうことだ」
幻のアザエルはそう言うと、姿を変化させ、二つの拳銃に変身した。しかも幻ではなく、本物の拳銃に変身していたのだ。
「武器に……なった……」
俺はそう言うと、拳銃の姿と化したアザエルは説明し出した。
『堕天の魔石とは、そもそも封印する結晶なんかではなく、その結晶の中に秘める武器を使用することができる天魔武器だ。だが、その結晶の中に秘める武器を結晶の外にいる者が使用するには、その間に存在する中継役が必要となる』
「中継役が……お前ってことか」
『その通りだ。俺はこの結晶に封印されてから、見た物なら何でも変身することができるようになっちまった』
「拳銃の他にも何か武器に変身できるのか?」
『拳銃含めて三種類だ』
そのとき、拳銃を持った俺の目の前に悪魔が空中から降りて来た。
「感電させるとは、やってくれたな‼」
「じゃあ、アザエル。お前の能力とやらを試させてもらおうか」
俺はそう言い、二本の拳銃を悪魔に向けると、悪魔は俺から距離を取った。
俺は距離を取る悪魔に対して、二本の拳銃から三発撃ち放ったが、悪魔は三発とも避けてしまった。
すると今度は拳銃が円の形をしたカッターブーメランに変化し、俺はそのカッターブーメランを悪魔に向けて投げた。
(カッターブーメラン……。これが二種類目、しかもこのブーメランはアザエルということもあるのか、追尾機能が付いている!)
俺はそう思うと同時にアザエルの言葉を思い出した。
【その結晶に封印されたおかげで、俺はその結晶から半径10mまでしか自由に行動することはできない】
つまり、ブーメラン自体アザエルということもあるので、ブーメランの射程距離は結晶を身につけている俺から半径10mなのだろう。
そう思っていると、ブーメランは悪魔の尻尾と角を切り裂き、俺の下に返ってきた。
「三種類目の変身を頼む!」
俺はそう言うと、ブーメランの姿が輝かしい剣の姿に変化した。その剣には何やら意味深な文字が刻まれていてとても読めそうにはなかった。
『さぁ、ぶちかまして来い!』
「あぁ‼」
俺はその剣を用いて、悪魔を斬り裂いた。