102話 セツヤの過去episode4
セツヤは一人目の仲間キビルを仲間に加え、次の仲間を探していた。
そしてセツヤはキビルとともにある者の下へ誘いにやってきていた。
それは白龍アジトにあるとある精鋭部隊の基地だった。
「白龍特殊暗殺部隊?そんなのがあったのかこの組織には」
キビルが基地の入り口で呟く。するとセツヤは丁寧に説明を始めた。
「特殊暗殺部隊は目立った作戦に出ることは無い。白龍連合が攻撃した敵の残党を一人残さず完璧に掃討する組織だ。戦闘力は勿論のこと、暗殺技術においてもずば抜けている」
「そんなエリート部隊からパーティに入れるのか。どんな奴だい?」
「特殊暗殺部隊4班副班長、ミズナ・アレビレス。触れることなく相手を滅ぼすその姿から‘‘冷徹の魔女”と呼ばれているそうだ」
「うわ、嫌な感じ」
セツヤとキビルはそんな会話をしながら特殊暗殺部隊の施設へと入って行った。
その施設内には訓練場のような場所もあり、体格の良い筋肉質の男どもがたくさんいた。まさに戦闘集団の施設だ。
そんな中に一人だけ、小柄なショートカットの女の子がいた。
セツヤはその女の子の下へと行き、こう問いかけた。
「君がミズナ・アレビレスだね。今日は君に話があって来たんだ。悪い話じゃない」
「……話?私があなたと話すことなんてあるのかしら?」
「勧誘しに来たんだ。僕は今パーティを結成するために戦力を集めている。君が必要だ。僕のパーティに加入する気はないか?」
「あなたは何者なの?見たところ白龍連合本部の者で間違いなさそうね」
「これは失礼、自己紹介がまだだったね。僕の名はレジル・ラグメニグル。䋝田セツヤという別名もある。どっちで呼んでくれても構わない」
「私は自分より強いグループにしか所属しない。貴方が私より強いという証拠はあるの?」
「では、1対1の勝負をしよう。どちらかが‘‘参った”と言えば勝負は終わりだ」
「構わない。じゃあ、始めよう」
ミズナはセツヤの提案に乗り、施設の廊下で突如勝負が始まろうとしていた。
まず、先に先手を打とうと攻撃に出たのはミズナだった。ミズナは両手の袖からピストルを取り出し、銃口をセツヤに向け発砲した。
しかし、セツヤは銃弾を避けようとせず、ゆっくりとミズナに向かって歩き出した。
ミズナが放った全ての銃弾はセツヤの身体に紙一重で一切触れていなかった。セツヤは銃弾の嵐を一切触れもせずミズナへと近づいて行った。
ピストルを持つミズナの手は震えてしまっていた。そんなミズナの姿を見てセツヤはこう言い放った。
「どうした?手が震えているようだが」
「……」
ミズナはピストルを持つ手を震わせたまま、弾を放ち続けていた。このとき、セツヤはふとしたことに気づいた。銃口は震えているはずなのだが、弾の起動は一切揺れていないことに。
「まさか……」
セツヤは確信した。そのとき、既にミズナの見せる幻覚の中にいることを。
「そう、貴方はもう私の世界に堕ちている」
ミズナはそう呟くと、ミズナが放った二発の銃弾がセツヤの右膝、左腕を貫いた。
続いて右肺、腹部、額を貫かれ、このときセツヤへ伝わった痛覚は半端なかったことだろう。しかし、セツヤは何発も撃ち込まれたまま、ミズナへと再び歩き出した。
「これ以上続ければ貴方は死ぬ。私は今、アナタの脳神経を支配している。痛覚を極限まで与え続ければいつでも殺すことができるのですよ」
「あぁ確かに痛いな。優れた術師というのは実際に体験させているかのような感覚を相手に与え追い詰める。だが、これは所詮偽りの世界だ。君は幻覚の見せ方に問題はない。だが、術師は脳神経を操る前に相手の精神状態を操らなければならない。確かに僕の身体は今、君がコントロールする痛覚によってダメージを負っている感覚がある。だが、それは偽物と見破ってしまう精神状態が僕に残っている限り、君がいくら過激な幻覚を与えようとも僕は倒れない。僕を倒すのなら僕をマインドコントロールすることだ」
「……やはりそうでしたか。先ほどから貴方に幻覚を与えつつ感じていた違和感。それを不充分なマインドコントロールだと見破るとは。こんな人、初めてですよ」
ミズナは少し笑みを浮かべながらそう答えた。そうしている間にもセツヤは少しずつミズナへと迫って来ていた。
「ですが、そう上手くはいきませんよ」
ミズナはそう言うと二体の赤色の龍が突如として現れ、二体の龍はセツヤを囲い込むように舞い、やがて龍は炎の竜巻に変化し、セツヤはその炎の竜巻の中に取り込まれてしまった。
セツヤの皮膚は熱で溶かされ、頭髪は焼き焦げ、身体の一部は骨が見えている状態になってしまった。
「堕ちろ」
ミズナがそう言うと同時に竜巻はおさまった。セツヤは焼き焦げてしまっていた。まるでゾンビのような姿だった。
「これで終わりです。あなたのマインドコントロールは完全とはいかなかったが、脳神経さえコントロールすれば殺すことはできるのですよ」
ミズナはそう言い切り、その場を立ち去ろうとしたとき、ゾンビのような容姿になったセツヤは再びミズナへと歩き始めた。
その姿を見たミズナは動揺した。
「バカな、痛覚は限界まで引き上げたはず!なぜ動いていられる⁉︎」
ミズナは焼き焦げた死体のような姿になったセツヤに向け、無数の剣を出現させ、突き刺した。
しかし、セツヤは止まらなかった。
再びミズナへと歩き始めたのだ。
「どんなに痛覚を与えても死なない。不死身という奴か?」
「ぞんなゲンガクじゃぁ……ボグばじなない……」
焼き焦げたセツヤは潰れた声でそう答えると、ついにミズナの目の前に立ち止まった。
「ギミがミぜるゲンガグは……」
セツヤを前にミズナはふと足の力が抜け、その場に尻もちをついてしまった。
セツヤから感じる恐怖感。それはいつの間にかミズナが見せる幻覚が解けてしまっていた。
「君が見せる幻覚は僕には効かない」
セツヤの姿は元に戻っていた。いや、そもそもセツヤの姿は一切変わっていない。
セツヤにとってはこれが当然の結果であった。




