101話 セツヤの過去episode3
白龍連合のアジトに設置されているセツヤの部屋にガルドが入室した。
「失礼するぞレジル。今後のことなんだが、黒虎連合を潰すとは言ったもののこちらには戦力が充分に備わっていない。そこで、お前を司令塔としたパーティを組み上げてもらう」
「いいだろう。人選は僕がやっても良いんだな?」
「人選は任せた。せいぜい足の引っ張らない奴を選ぶんだな」
「ならまずは下級兵士に所属している長髪の彼が欲しい」
「キビルのことか?下級兵士に所属している並の兵士だぞ?そんな奴はいくらでも……」
「確かに彼は何も変哲もないただの兵士だ。しかしそれは彼が自分の特徴を活かしていないからだ。僕は彼に少し興味を持っていてね」
セツヤはそう言い切り、お昼時、白龍兵の兵舎へとガルドとともに訪れた。
兵舎にはたくさんの兵士たちが生活しており、兵士たちは昼食を取っていた。
「が、ガルド様!」
「ご勤務お疲れ様です!ガルド様!」
兵士たちはガルドの姿を見るなりペコペコと頭を下げていく。
ガルドが一人の兵士に問いかけた。
「槍兵のキビルはいるか?」
「はい!キビルなら507号室で休養を取っています!」
「案内してくれ」
ガルドとセツヤはその兵士にキビルがいる507号室まで案内してもらった。兵士はその部屋の扉を開けると、その瞬間、異臭がセツヤとガルドの鼻についた。
507号室の奥には一人の青年がダルそうにベッドの上で寝そべっていた。
「ん、何すか?まだ昼食休憩の時間……ってうわ!こ、こんにちは!」
「本当にこんな奴を仲間にするつもりか?」
キビルの姿を見たガルドはセツヤにそう聞いたが、セツヤは意思を変えずキビルへ問いかけた。
「君に昇格の話があってここに来た。キビル・フリッツァー。僕の組に入る気はないか?」
「組?あー、パーティのことっスね。断ります。つーかまずアンタ誰だ?」
「僕の名は䋝田セツヤ、本名はレジル・ラグメニルムだ。本名で呼ばれるのはまだ慣れていないからセツヤで呼んでくれ。さて、君はいま昇格の話に乗らないと言ったが、それは何故だ?」
「俺は人を殺したくはない。人を守るために兵士になった。だけど俺は気づいた。昇格すればするほど、戦場に狩り出される出番が多くなり、多くの人の死を目にすることを。俺は人は殺したくはない。それだけっス」
「残念だが、君の言う守る人というのは君の両親や友達の話だろ?この世界には何千、何万、何億という数の人がいる。兵士になるということは戦うこと。何と戦うかというならば、数々の人間の中に埋まる悪を粛清するためだ。君が両親や友達の身柄を守るために戦っていると言うならば、僕は君を組みに入れるつもりはない。だが、人類に紛れている悪を粛清する覚悟で兵士を続けるなら、是非僕のところへ来ると良い。君の両親や友達を守るか、人類を正すか、だ」
セツヤはそうキビルに言い残すと、セツヤとガルドはその部屋を退室してしまった。
部屋に残されたキビルは唖然と心打たれたような顔つきで黙り込んでしまった。
数日後、セツヤの部屋に誰かがノックしてきた。
「どうぞ」
セツヤはノックに対し、そう返事を返すとその部屋にあのキビルが入ってきた。
「どうやら考えはまとまったようだね」
「俺は人類を正すために戦う。アンタの言う通りだ。今、俺たち兵士がやることはただ敵からの攻撃を塞ぐ盾を作るのではなく、敵そのものを滅ぼす矛を持つこと。改めて考えて気づいたんだ。俺はアンタについて行く」
「お前は頭がいい、その通りだよキビル。だが、まだ組みに入れるわけにはいかない。まだ僕は君の覚悟を見ていない。そこで僕から君に任務を与えよう。この任務をクリアすれば君は晴れて僕の組みに入れる」
「任務の内容は?」
「君の両親、トルテロ・フリッツァーとアリシャ・フリッツァーの暗殺だ」
セツヤがそう答えた途端、キビルは動揺を抑えられず動向を開き、そしてこう問いかけた。
「俺の両親を殺す理由は?」
「この二人は君が幼い頃、食べ物が欲しいがために地元の飲食店の店員を殺害している。つまり強盗殺人を犯している。君はまだ赤ん坊だったからわからないだろうが、これは事実だ。もう一度言う、正しい兵士というのは友達を守る者ではない。人類に紛れる悪を滅ぼす者だ」
「……了解だ」
キビルはそう返事をし、すぐに出かけた。
そして後日、キビルはセツヤの部屋に二人の首を持ち帰ってきた。
その首は紛れもない、キビルの両親の首だった。