99話 セツヤの過去episode1
人間界の一部が突如、黒い霧で覆われたあの日、セツヤは目が覚めると薄暗い布団の上で横たわっていた。
その時のセツヤの記憶はほとんどない。黒い霧が出現して、シンを押し倒し、黒い霧が自分を包み込んでいく光景をセツヤは覚えていた。
「ここは……どこだ……?」
セツヤは辺りを見渡した。薄暗い部屋で特に何も置いていない。
三本のロウソクが寂しく灯っていて、灯りの近くには虫が寄っている。
「目が覚めたようだな」
薄暗い部屋の奥から何者かの声が聞こえ、セツヤは返事を返した。
「誰だ」
「安心しろ、俺はお前の敵ではない。俺はお前に重大な事実を伝えるために、お前をここに連れてきた」
すると暗闇の奥からあのガルドが姿を現した。セツヤは絶えず聞き返した。
「重大な事実?」
「とりあえず名乗っておこう。俺の名はガルド、白龍連合という組織の副将だ」
「重大な事実とは何だ?俺をどうするつもりだ?」
「セツヤ、お前は気づいているだろうが日本人ではない。お前は悪魔や魔術という神秘的な技術が発達した雪国、ホワイト国から追放された両親から生まれた子だ」
セツヤは呆れた顔で返答した。
「ホワイト国だと?馬鹿げている。俺がそんな話を信じると思っているのか」
「信じる信じないはお前の勝手だが、事実は変わらん。何よりお前がホワイト国家ということはお前のその白い髪とホワイト国の血が証明している。お前はホワイト国家の中でも風神一族の血を引いた激レアだってことも俺は知っている」
「風神一族?何わけのわからないことを」
「片手を握ってみろ、空気を掴むようにだ。そしたら手を握ったまま俺に向けて手を開いて見るんだ」
セツヤは疑いもなく言われた通りに手を握った。どうせくだらないことだろうと思った。しかし、セツヤが握りしめた手を開いた瞬間、強烈な突風がガルドを吹き飛ばした。
風圧に吹き飛ばされたガルドは壁に背中を強打し、血を口から吹き出した。
「ガハッ!」
「……ッ⁉︎」
ガルドはその場に倒れ込み、セツヤは混乱を隠しきれなかった。まさか手を開いただけで人を吹き飛ばすなんて考えてもいなかったのだ。
するとその場に倒れ込んだガルドはスッと姿を消し、無傷な状態のガルドがセツヤにまた話しかけた。
「安心しろ。お前の攻撃を受けた俺は身代わりだ。どうだ?これで少しは納得しただろう?お前の血筋を」
「俺がホワイト国家だと?風神一族だと?なんだ?俺は夢でも見ているのか?」
「落ち着け。混乱する気持ちもわからなくはないが今はゆっくり息をしろ」
ガルドはそう言うと、その部屋に置いてあった椅子に腰掛けた。
「かつてホワイト国とは、ホワイト家、バーバリタス家、ラグメニル家の三つの家主から始まった連盟国だった。そこで王家を授かったのがホワイト家だ。彼らには未来を見る力が存在し、国の未来を見ることができると誰もが信じたからだ。だが、一家とは違う存在が王家を揺るがせた、それが風神一族と雷神一族だ。彼らは魔法結晶を必要としない魔術を扱い、次々とホワイト国家の勢力を衰退させた。そこで二つの一族の暴走を止めるべく王位に就いたのがバーバリタス家だった。バーバリタス家の家主は王国の中に眠る遺跡を発見し、そこから奇跡の品を見つけ出したのだ。それが、黒い箱だ。悪魔界へと移動することができる黒い箱を使い、バーバリタス家は悪魔武器を用いて戦力を拡大させた。悪魔武器を手にしたバーバリタス家は二つの一族を壊滅させた。しかし、悪魔の力に魅了されたバーバリタス家の家主は国民に無理な要求を何度も押しかけた。国民の意志に答えるべくバーバリタス家に立ち上がったのがラグメニルム家だった。ラグメニルム家は悪魔武器を使って来るバーバリタス家に対して、鉄剣や銃火器といった人間の武器で戦いを挑んだ。その勝負はラグメニルム家が勝った。ラグメニルム家にはホワイト家のようにその一家にしか得ることができない能力を持っていたからだ。その名も超重圧。相手の精神を潰し戦意喪失させる力だ。ラグメニルム家は王権を手にした。しかし、国民はそんなラグメニルム家を王家にするのは認めなかった。また力で支配する王政が始まるのだろう予感したからだ。国民はホワイト家が王政へ上がることを望み、ラグメニルム家とバーバリタス家を追放しようと企んだ。そこでラグメニルム家を何とかホワイト国に残すため、ラグメニルムの家主は父と息子を国外に追放する代わりにラグメニルム家をホワイト国に残すようホワイト国家へ交渉した。その交渉は成立した。そして追放された家主の父と息子というのが、お前とお前の祖父なのだ」
「そんな話……嘘に決まっているだろ」
「いや、全て本当のことだ。お前の祖父はお前にこのことを悟られぬよう、わざわざ日本という遠い異国まで旅立ち、お前に新しい名前を与えた。䋝田雪哉と。お前の本当の名はレジル・ラグメニルム。雪国の王子なのだ」